第53話 顔合わせ

 真神家と高野家の顔合わせは、京都のホテルの一室を借りて行われた。


 結構、広めの部屋。

 宿泊する部屋には見えなかった。

 結婚式の披露宴に使いそうな感じではある。

 ……ちょっと狭いかな? それだと。


 大きなテーブルを挟んで座り、両家ご対面。


「お忙しいところありがとうございます。佐上忍と申します。真神真虎の父親です」


「妻の真月です」


 ……真虎くんのご両親が挨拶をしてくれた。

 ふたりとも、上等そうなスーツ着てる。

 ……お金持ちの雰囲気があるなぁ。流石。


「……真神真霧です。真虎の姉です」


 で。

 緑色のブレザー姿のロングヘアクール美少女が頭を下げてくる。

 お姉さんまで付いて来た……

 まあ、別にいいんだけど。

 これからは義理の姉になる人だし。


 月心さんは来てない……

 これからは義兄になる人だけど。


 男の人って、弟の結婚は興味無いのかな?

 それとも……


 お義姉さんの、弟愛が深すぎるだけなのか……?


 で、こっちの面子は……


 私、お父さん、お母さん。

 いじょ。


「高野努です。こちらこそよろしくお願いします」


「妻のめぐみです。よろしくお願いします」


 私の両親が頭を下げた。

 それに従って、私も頭を下げる。


 そして、顔を上げて、真虎くんを見つめた。

 この人と結婚するための細部を詰めるためと、相手の家を理解するための今日の一席。


 最初に話をはじめたのは


「まず最初に言っておきますが、申し訳ございませんが、のぞみさんはお嫁に貰います。真虎を婿には出せません」


 ……だよね。

 お義母さんが最初にそう言って来る。

 あり得ないもん。

 真神家を継がせるために、養子に出した息子なのに。

 婿に出すわけが無い。


 それに対してお父さんは


「……それで構いません。ウチはまあ、無法状態のときに色々無くした家なので。家が絶えても困るのは我々ぐらい。気にしなくていいです」


 お父さんはそう、愛想笑いを浮かべつつそう言った。

 ……お父さん。


 お母さんも


「私たちはまあ、国家の集合墓地に葬って貰えれば、墓無しにはなりませんし。それに大した家でも無いですしね」


 そう、追従する。

 で、こう続ける。


「……娘が巨乳と判定されたとき、娘の将来は大丈夫だろうか、ダメになってしまうんじゃないかと思ったのに。これだけ立派なところにお嫁に出せるだけでも万々歳。これ以上望んだら罰が当たります」


 ……お母さん。

 どうしよう……?


 言い出そうかな?


 真虎くんとふたりで決めたこと。


「あの」


「そのことだけど」


 ……同時だった。

 思わず、きゅんとしてしまった。


 ふたりで見つめ合う。


「真虎、何かあるの?」


 お義母さん。

 それに対し、真虎くんは


「ああ、そのことだけど。のぞみさん、お願い……」


 今はふたりきりじゃないし。

 ちゃんとさん付けで呼んでくれる。


 で、言った。

 私たちでこの前決めたことを。


 私たちの子供の4人中2人を養子に出すってことを。


 そしたら


「……のぞみ、別に気にしなくていいんだよ?」


 お父さんがそう言ってくれたんだけど。

 そんなのただの気遣いなのは私にも分かるし。


 こう言ってあげた。


「だったら、4人の真神姓の子供ができるだけだよ」


 私、真虎さんの子供を沢山産むから、別にそこは関係ないよ、って。


 そしたら


「……兄弟間で名字違うのは嫌でしょう?」


 真霧さんがそう、参戦してくる。

 実体験ある人だから。お義姉さんは


 だから


「うん。ですよね。でも……」


 私は真虎くんを一瞥し


「……父親になる人が寄り添ってくれると思うから、大丈夫だと思います」


 そう、言った。


 ……そうすると。

 なんだか、お義姉さんの目が、変わった気がした。




 そしてしばらく話し合った。


 入籍のタイミングだとか。

 結婚式のタイミングだとか。

 入籍後の私の身の振り方とか。


 で、色々決めて。


 一時休憩しましょう、ってなって。


 私はトイレに行ったんだ。


 で、用事を済ませて手を洗っていたら。


 トイレに、真霧さんが……お義姉さんが入って来て。


「あ、お義姉さん」


 頭を下げたら


「……弟をよろしくね」


 そう、ボソっと言われた。


 あ……


 今、私……このヒトに認めて貰えた……!


「ハイ! よろしくお願いしますお義姉さん!」


 嬉しくて、少し声が大きくなる。

 そしたら


「アナタの方が2才年上なんだから、お義姉さんは止めて!」


 そう、半分悲鳴のように苦情を言われてしまったけど。


 そう言われましても……お義姉さんはお義姉さんですし……。


「……真霧さんと呼んで」


 お義姉さんからの妥協案。

 仕方ない……


「真霧さん、よろしくお願いします」


「ええ。よろしくお願いするわ。のぞみ」


 凛とした感じでそう言われた。


 ……うう。まあ、義姉だしね。

 呼び捨てはしょうがないのかな。

 これから一生、2才年下の子の義妹で、呼び捨てにされる私……

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