第52話 反面教師の話

「うん。そう終わった。もう決まり」


 自宅の自室で。

 ベッドに腰掛けながら、スマホで通話していた。


 親友の徹子と。


『まあ、ご苦労様って感じだね。でもここからが大変だから、覚悟するんだよ』


 電話の中の徹子は、私を祝福してくれる。

 で、警告してくれる。


 胡坐かくなって。


 うん。それはそうだよね。

 理解してるよ。


 ……ここで、この前の巨乳互助会で見た、草麗満子そうれいみちこさんの悲惨な姿を思い出す。

 相手の好意を不変のものと考えて、胡坐をかき、好き勝手やった結果の末路。

 ああはなってはいけないよね。


 ここから先は、真虎くんの愛を失わないように努力するステージに上がるんだ。

 これまでは誰と一緒に人生を歩くかを探るステージだったんだけど。


「……あのさ」


 ちょっと、気になったので聞いてみる。


『何?』


 徹子の返事。


「……草麗さんってどうなったのかな? 知ってる?」


 気になるよね。

 悪い見本みたいな人だし。


 そしたら


『ああ、あの子?』


 その声には憐れみみたいなものがあった。

 あと、嫌悪感と呆れが。


 徹子は当然だよね、って感じで


『あの子、まだ復縁も結婚もできてないよ』


 ……やっぱり、無理だったんだ。


 彼女は続けた。


『……まあ、許されるわけ無いよね。なのに……』


 どうも


「今なら復縁してあげてもいいけど? お互い、悪かったよね」


 みたいなことを言ったらしい。元旦那さんのところに飛んで帰って。

 それでまず


「出ていけカス。お前なんかに惚れていた僕が馬鹿だった。本当に」


 そう、一刀両断。

 そこでようやく土下座。

 ブルブル震えながら


「私が全部間違っていました。今までの失礼な態度を謝ります」


 そう、真っ青になって言ったらしいんだけど。


「今更遅い」


 冷たくそう斬って捨てられて


 そして彼女が


「……私、結婚しないで高校卒業すると国外追放か、クソ男の性奴隷になるしか無いんだよ」


 そう言って泣きつくと


「なれば? 僕の知ったことじゃない」


 クソ女とは相性いいかもな。クソ男。

 お前は人類じゃ無いから、暴力的なクソ男さんにキチンと躾けて貰えばいいよ。


「そんな酷いことを言うなんて! 良心は無いの!?」


「そんな意味不明のことを言うなんて! 知能は無いの!?」


 泣きっ面の彼女に、ゲラゲラ笑って元旦那さんは斬り返してきた。

 

「お願いです! 許してください! 絶対服従しますからぁ! 何でも言うこと聞きますぅ!」


 最終的に泣きながら許しを請うたらしい。

 でも


「……そういうの、僕の中では奥さんって呼ばないんだよね。夫婦は平等であるべきだ。肉便器ならそれで良いけど、何で肉便器のために、僕の大事な奥さん枠を使わないといけないの?」


 全く聞き入れられず。

 問答無用で叩き出されたらしい。


『……愛や絆を不変のものと思うとか、自分の強さの勘違いだとか。自分以外の他の存在を舐めていたからこうなったんだね。良い反面教師だよ』


 徹子は容赦なかった。

 ……そして、今なら私もそう思う。


 ありえないよ。あの子。


 私なら絶対に同じこと言わないもん。

 真虎くんや、その家族に。

 言えるわけがない。


 折角手に入れた絆を、勘違いや我侭でドブに捨てるなんて。

 ありえない。


 ……この先、どれだけ真虎くんに愛されても、勘違いして増長することだけは絶対にしちゃだめだ。

 そのための反面教師。


「ああはなっちゃダメだよね」


『そうだね。まぁ、のぞみは大丈夫でしょ』


 なんて言うけど。


「いや、そういうのが危ないんじゃないかな?」


 そう返しておく。

 謙虚にいかないと。


「あとさ、徹子は旦那さんの家ではどういう感じなの?」


『旦那の家……そうだね。旦那は姉が2人いるんだけど……』


 気をつけているのは、姉2人に嫌われないように……

 そして私は、親友の実例を教えて貰って、今後の私の参考にさせて貰った。

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