第51話 4人必要

 お互いの家への挨拶が終わったので。

 ふたりでファミレスに入った。


 今日はここでふたり一緒にお昼ご飯を食べて、その後それぞれの家に帰るつもり。


「お疲れ様。ありがとう。頑張ってくれて」


 私はそう、真虎くんを労った。

 私と違って、お父さんが最初難色示してたのに、ちゃんと納得させてくれたから。


 お礼を言う以外、無いよね。


 料理を決めずに、水の入ったグラスを弄びながら私。

 向かいの席に座ってる真虎くんは


「のぞみと結婚するために、ご両親を納得させるのは必須だよ。当たり前」


 真虎くんは水に口をつけながら、そう返してくれる。


 そして


「……もうちょっと早く、のぞみの家に行っておけば、あそこまで驚かれずに済んだかもしれないな」


「……そうだね」


 ……別に避けてたってわけじゃないけど。

 なりゆきでそうなってしまった。


 そのことについて、ちょっと後悔していると


「……のぞみはのぞみで、ありがとうな」


「……何が?」


 水を飲み干した真虎くんにお礼を言われて、訊き返す。


 私、そんな大変なこと、何もしてないけど?


 お義母様、ちょっと怖い人だけど、結構初期状態から私のこと認めてくれたし。

 私、お嫁入りに関しては何も不安になってないんだけど?


 すると


「……真霧姉ちゃんに関して、何も言い返さなかったよね。姉ちゃん、僕への気持ちから、のぞみに対する当たりがキツかったのにさ」


 ……えっと


「……そんなの当たり前でしょ? 家族になる人なんだよ? 仲悪くなったら、真虎くんが困るじゃない」


 そう返すと


「……そういうところ。ホント、すごいよね。のぞみは」


 そう言って、水をまた飲もうとしたけど。

 さっき飲み干して、氷しか残ってないことに気づいてテーブルに戻した。


 そして


「……だから、何が何でもキミが欲しいと思ったから、全力で計画を立てたんだよ」


 そう、ちょっと恥ずかしそうに言ってくれた。

 その言葉に、ドキドキする。


 ……私、この人に本当に愛されてるんだな。

 それを自覚できるというか。


 心が繋がるって、素晴らしいよね……


「次は両家の顔合わせだよね」


 ドキドキしながら、私も水を飲み干した。

 そして、メニューを開く。


 ……まあ、見てはいるけど見て無いんだけど。

 メニューの内容。


「そうだね。……それは来週の話だけどさ」


 真虎くんは、溶けた氷の水に口をつけながらそう応じて。


「入籍に関することとか、入籍後のこと。あと、結婚式のことでも決めることになるのかね」


 うん……そうだよね……。

 そこのところ、家の問題だから私たちだけで決められないし。


 多分、顔合わせで決めることになりそうな気がする。


 まあ、予想できるところはあるけどね。

 例えば名字。


 絶対、私が変えることになる。

 真神家を継ぐために養子に行ってる真虎くんの事情があるし。

 それに家の規模が全然違う。

 私の家に、全ての事情をねじ伏せて婿養子を強要する意見を貫くチカラなんて無いよ。


 そこのところに、ちょっとだけ寂しさを感じたりもしたんだけど。

 しょうがないよね、と私は諦めていた。


 そのときだ。


「なぁ、のぞみ」


 真虎くんがすごく真面目な声で私にそう呼び掛けてきた。

 えっと……


 何か、ちょっとただならぬものを感じて、私も背筋を伸ばす。

 メニューもテーブルに置いた。


「……な、なんでしょう?」


 すると。

 ずい、と私に顔を近づけて、こう言ったんだ。


「子供をさ、2人以上産んでくれないかな? 将来の話だけど」


 子供……子供……


 あかちゃん!


 一瞬で、頭の中で目の前の人……真虎くんとエッチして子供を作るのが運命づけられてるんだということを自覚して。


「え……えっと……い、今からその話、しちゃうの……?」


 動揺と興奮で、声が上擦る。


「今から決めとかないと、多分、顔合わせでその話題、出るよ?」


 真虎くんの予想。

 真虎くんがそういうなら、多分そうなるんだろう。


 だから私は


「……わ、分かった……2人でいいの? 3人は要らないの?」


「……そりゃ、キミの持ってる巨乳認定証のことを考えると、多ければ多い方がいい、って結論になるけどさ」


 母さんの受け売りだけど、3人産むだけでだいぶしんどかったって言ってたよ?

 愛があってもしんどいものはしんどいって。

 それでもやってくれるなら、僕は嬉しいけどさ。


 ……だって。


 経験者の言葉、重い……


「ちなみに、何で?」


「……普通、先にそっち訊くよね? 先に了承しちゃうんだ?」


 ……ホントだ。

 何でだろう……?


 って……


 答えは分かってる。

 私、単に真虎くんの子供を産みたいって思ってるんだ。


 それだけの話。


「別にいいじゃん。無法時代のせいで人口激減してるんだから」


 私は自分の本心に赤面してしまい、俯く。

 真虎くん、私のそんな本心に気づいたのか分からないけど。


 軽く咳払いして


「……キミがお嫁に来たら、高野家が絶えるでしょ。跡継ぎいなくなるから」


 そう、言って来る。

 うん……そうだね……。


 だから?


 すると


「高野家に1人、子供を養子に出すべきだと思うんだ」


 そう、真面目な声で言って来る。

 ……それを、真虎くんが言っちゃう?


 それを思ってしまった。

 前に訊いた話は覚えてる私。


 真虎くん、昔は自分の名字が他と違うことを気にした時期、あったんだよね?

 それなのに、やっちゃうの?


 ……私のために……


 胸の前で、きゅっ、と拳を握る。


 そしてそのまま、私は言ってしまった。


「だったら、4人産むよ。あなたの子供」


 ……だって、養子で1人だけ出されるの可哀想じゃん。

 お義姉さんみたいに、2人で養子に出した方がいいでしょ。


 そう思ったから思わず言ってしまったんだけど。


 それが、ちょっと真虎くんには予想外だったみたいで。


 ……真虎くん、ちょっと目を逸らしていた。

 

 ひょっとして、嬉しかったのかな?


 ……彼のこと、可愛いと思ったし。

 とても嬉しかった。


 愛されてる、っていう想いが強くなる。


 そして


 自分の言ったことの意味を自覚して。

 私はみるみる真っ赤になり、誤魔化すために


 空になったグラスに、水を汲んでくるために席を立ったのだった。

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