第50話 娘さんを僕にください

「真虎くん、狭いところで申し訳ないけど」


 言いながら、私はマンションの中を案内する。

 真虎くんは私同様、制服だ。

 京都第一高校は、学ランが男子の制服だから、学ラン姿。

 私も合わせて、セーラー服。


 ふたりとも、学生服。


 歩きながら


「のぞみはいつからここに住んでるの?」


「物心ついたときからかな?」


 自動ドアを開けてエントランスに入って、廊下に出て、部屋を目指す。

 2人で狭い廊下を一緒に歩く。


 ……真虎くんの家と違い過ぎる。

 そこが本当に気になるなぁ。


 コンクリ製の廊下。

 管理人の人が定期的に掃除しているから、ゴミは一切落ちてない。


 真虎くんの家も綺麗だったから、幸いかな。


「のぞみの家は何階にあるの?」


 階段に差し掛かったとき。

 真虎くんがそう訊いてくる。


 私は


「3階」


 正直に答える。

 だから私はエレベーターを使ってない。

 理由は「少しでも身体を使いたい」から。


 途中で、管理人さんに出会った。


「あ、こんにちは!」


 私は頭を下げた。

 管理人さんは、ツバ広い黒い帽子を被った中年女性。 

 その制服は、ジャージに良く似たもので……


「高野さん、お友達ですかその人?」


「いえ、婚約者です」


 ……驚くよなぁ。

 そりゃ。彼氏って言うのだけでもかなりアウトなのに。


 管理人さん、絶句してた。


 その後、なんて言えばいいか分からないから、愛想笑いを浮かべて、その場はやり過ごし。

 そのまま階段を上がる。




「ここだよ」


 高野、の表札がある部屋に辿り着く。

 いよいよだ。


 ……今日のために、お父さんは仕事を午後半休にして貰ってるし。

 お母さんだって外出控えて貰ってる。


 ……さあ、紹介するんだ。

 私の結婚相手を。


 自分の家のインターホンを押した。


 すると、バタバタ音がして。


「おかえり」


 中から開けて貰える。

 私は


「ただいま」


 そう、言いつつ


「さ、真虎くん、入って」


「……失礼します」


 ……応対に出たの、お母さんだったんだけど。

 メッチャ、驚いていた。




 真虎くんは和室に通された。

 そこで待機していたお父さんにご対面。


 そこで立ったまま改めて両親2人に挨拶。


「真神真虎と申します。お義父さんとお義母さん。はじめまして」


 初対面だから。

 丁寧にそう挨拶をしてくれる。


 そこに彼の愛情を感じて、胸が熱くなった。


「えっと……」


 最初に口を開いたのはお父さんだった。


 どこから見てもごく平均的な見た目をした私のお父さん。

 平凡な人だけど、今日まで私を育ててくれた大切なお父さん。


 そのお父さんが、言った。

 震え声で。


「キミ……中学生……いや、小学生に見えるんだけど、気のせいかな?」


 ……お父さん


 真虎くんはそれに対し


「ええ。僕は飛び級で中1から高2のクラスに進級しましたから、お義父さんのご指摘はその通りですね。気のせいではありません」


 すっごく冷静。

 ……真虎くん……


 お父さんは


「つまりショタじゃないか! のぞみ! 結婚相手にショタを連れてくるとはどういうことだ!?」


 私に食って掛かって来た。


「お父さん落ち着いて!」


「そうです! 落ち着いてくださいお義父さん!」


「これが落ち着かずにいられるかぁ!」


 お父さんは泣いていた。


「大事な娘が巨乳判定を受けたというだけでも辛いのに、娘の連れてきた婚約者がショタだなんて、そんなふざけた話があるかぁ!」


 俺はな、家族のために、工場勤務を18年続けてきたんだ!

 その結果がこれかよ!?


 娘が巨乳判定を受けるという事は、子供の状態で一生を共にする相手を見つけ出すっていう難しい課題を強制されることになる!

 だからだいぶ絶望したが……正直、のぞみの受けている講習の高度さを考えたら、イケるかもと夢を見てたんだ! それなのに……!


 大人なのに、お父さんはガチ泣きしている。

 私は混乱していた。


 ……お父さん……違うんだよ……!


 そのときだった。


「お義父さん。4才差なんて、数年で大した年齢差じゃなくなりますし、僕は身分の上では高2です。つまりのぞみさんと同じスピードで社会に出ることが可能なんです。安心してください」


 お父さんの取り乱しぶりにも動じず、真虎くんは冷静にそう言ってくれた。


 それに対し、お父さんは


「キミはとても冷静で頭も良さそうだな!」


 そう、吐き捨てるように言った。

 真虎くんは


「ええ。そこは認めます。僕は一般の学生よりは優秀だと思います」


 そう、答えた。

 すると


「中学生なんてねぇ! 性欲の塊なんだよ! キミだってのぞみの巨乳が目当てなんだろう!」


 そんなことを言ってしまうお父さん。

 私はショックを受ける。

 そんな! お父さん!? なんてことを……!


 だけど。

 それに対して真虎くんは


「……そりゃあ……のぞみさんの巨乳に全く惹かれないかといえば嘘になりますけど……」


 そのことを、認めてしまう。

 正直、え……と思った。


 そりゃ、ちょっとは視線を感じることはあったけど。

 それはただ「大きいから」目を引くだけだ。


 この人は、私の胸が目当てで、私を欲しがってるわけじゃないんだ。


 そんな風に思っていたのに。

 違ったの……?


 だけど、続けてこう言ってくれた。


「でも、他の巨乳は別に要りませんね。のぞみさんの巨乳だから、欲しいんです」


 ……ドキッ、とした。

 真虎くん……!


「娘の巨乳だから……?」


「ええ……」


 復唱するお父さんに、大きく頷く真虎くん。

 そして続けた


「のぞみさんはね……表面上の格好良さに惑わされず、人として大切なことを迷いなく行える女性なんです」


 言って、真虎くんは説明した。


 真虎くんが私に惹かれた話のことを。

 あの、ゲームセンターの話。

 暴漢を撃退した佐上くんじゃなく、真虎くんにお礼をしたこと。

 そこで惹かれたって。


 言われたことは、別に普通のことだったから、何が素敵だったのか分からなかったんだけど……

 真虎くんには「どうしても私が欲しい」って思ってしまう出来事だったらしい。


 で、私を手に入れるために、すぐに飛び級による編入手続きを開始したそうなんだ。

 私を手に入れるには、同じ学校の同じクラスに入らないと駄目だ、って思ったから


「……キミは娘を手に入れるためにそこまでしたのか……?」


「行動を起こさないといけないときには起こさないと、夢は叶えられません」


 動揺するお父さんに、正面から応じる真虎くん。


 ……私は、彼の想いの深さに感激していた。

 でも、高2に編入までは可能でも、クラスの指定の方はどうやったんだろうか?


 ……まあ、いいか。

 それくらい、私を愛してくれているってことだし。

 重要なところはそこじゃない。


 私は……


 立ったまま、私の両親に自分の想いを説明している真虎くんを、後ろから抱きしめた。

 そして、お願いする。


「お願い! お父さんとお母さん! 私、どうしても真虎さんのお嫁さんになりたいの! お願い! 認めて!」


 ……行動を起こさないといけないときは行動を起こす。


 さっき、真虎くんが言ったことだけど。

 それを身をもって示した。


 それに対して、お父さんは……


「……分かった」


 ……認めてくれた!


「キミはどうも、その辺の男よりはよっぽど賢いししっかりしてるようだし……ちょっとショタなくらいで反対するのは、厳しすぎるのかもしれんな……認めるよ」


 そう、負けたよ、みたいな表情でお父さん。


 私はその言葉に天に昇るような喜びを感じて


 ぎゅ~っと、真虎くんを抱きしめて、こう言った。


「ありがとう! お父さん!」


 やった! 真虎くん!


 絶対に幸せになろうね!

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