第49話 息子さんを私にください

「お義父様、お義母様、真虎さんからお話を聞いていると思いますが、よろしくお願いします」


 佐上家リビングで。

 真虎くんのご両親の姿を見ると同時に、私は座って土下座をしていた。

 周りがじっと私を見ている。


 土下座って、一種の暴力って言うけど。


 この場合の土下座ってありえるでしょ。

 だって、こんな特殊な状況でお嫁入りを認めてもらう上……私の家と彼の家は格が違うんだから。


 一応、この国は国民は全て平等である、ってなってるけど。

 家の格っていうのは絶対にあるし。

 格が違う場合、それを乗り越えるのは絶対に楽じゃないよ。

 シンデレラなんて、お伽噺の話なんだ。

 美味しい話じゃないんだよ。


「……土下座はやめなさい」


 そしたら。

 お義母さんがそう言ってくれた。


 ……どうしよう?

 言われるまま、すぐにやめるべきか?


 それとも、あえて拒否するべきか……。


「……あなた、巨乳認定証持ちなのよね?」


 そうしてまごついていたら、お義母さんから言葉が

 私の背中に降ってくる。


「はい!」


 私は顏を上げて答えた。

 土下座をやめて、正座で


 すると


「……ウチの真虎を恋人にしようとしたのは、実質中1男子なら手軽に結婚出来そうだから?」


 そんなことを言われてしまった。

 私はその瞬間


「違います!」


 即答した。

 それは絶対に違う!


 真虎くんと簡単に結婚なんて出来るわけが無い!

 そんなの分かってる!


 そしたら


「じゃあ……なんで?」


 ……このとき。

 私は返答できなくなった。


 私の真虎くんとお付き合いした切っ掛けは


 真虎くんに告白されたから。

 そして真虎くんの告白を却下するのは高望み。


 そう思ったからだ。


 ……でもこれ……


 お義母さんには言えない……


 だって……この理由、本当の事だけど、絶対に怒られる!


 だって真虎くんである必要ないじゃん!

 どこに愛があるの? どこに恋があるの?


 こんな理由で「息子さんと結婚させて下さい!」なんて言いに来る女、私が母親なら絶対に認めない!


 でも……切っ掛けはそうでも、結婚を決めたのはそんな理由じゃない。

 真虎くんは私が危ないときに身を挺して守ってくれて

 私の行動を褒めてくれて


 そして、一緒にイエーイしてくれた……


 こんなの……もう、離れられない……。

 今は……本当に好き……。


 私は自分の下腹部を触った。


 でも……これは後からの気持ち。

 最初の気持ちは……違う。


 なんて言えば良いんだろう……?


 そしたら


 お義母さんがフフフッ、って笑って。


 私の傍に歩み寄りながら


「……あなた、正直ね。嘘を吐くのが下手なのが伝わって来るわ。……素直な子なのね」


 その声は、とても優しかった。

 続けて


「……巨乳認定証所持者の恋愛は、タイムリミットがある。つまり、通常の恋愛とは性質が違う。それは、相手に惹かれるかどうかではなく、問題が無いかどうかで恋がはじまるの」


 お義母さんは笑顔だった。

 とても優しかった。


「でも、それをそのまま口にするのはイメージ悪いものね。誰でも良かった、みたいに聞こえるもの」


 そういうところ、大好きよ。

 前に家に来たときも、気を遣ってくれてたわね。

 だから、前に来たときにほとんど認めてたわ。


 顎に人差し指を当てながら、そのときのことを思い出してくれているのか。

 お義母さんは、笑顔だった。


 ……お義母様……!


 私は思わず、感涙する。

 口に手を当てて、震える。


 お義母様はそのまま、私のところにやってきて。

 スッと膝を突き


 私を抱きしめて


 ……感激。

 思わず、私もお義母様に手を回した。


 そしてお義母様は


 私の耳に唇を寄せて


 こう、囁いた。


「ただし、真虎を裏切ったら、殺す」


 普通の調子だったけど


 ……あ、これ……本気だ。


 それを、悟ってしまった。

 そっか……


 普通は、夫を裏切った妻は国外追放で許してもらえるけど。

 私の場合は、殺されちゃうんだ……!


 怖かった。

 怖かったけど……


 真虎くんのお嫁さんになるためには乗り越えなければならない壁。


 ……逆に考えるのよ……私だけ、不倫に対する法律が江戸時代のものが適応されるだけだって……!

 大したことないよ! 国外追放が重ねて4つになるくらい……!


「……これからよろしくお願いします……お義母様……!」


 私はお義母様の言葉に、私はそう答えを返した。

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