第44話 再会

「映画終わったら、買い物に付き合って欲しいんだけど、良いかな?」


「別にいいけど、僕にセンスなんて期待しないでね」


 私の服については出会い頭に「その服、前にも見たけど、良く似合ってるね」と言われて。

 覚えてたんだ……と少し感激し。


 彼の服装を見た。


 ピッとしたカッターシャツに、黒い吊りズボン。

 吊りズボン、多いよね……


 まあ、似合ってるんだけど。


 ……そのとき


 なんだか、視線を感じた。

 嫉妬というか、羨望というか。


 背中からだ


 振り返る。

 ……誰?


「……どうしたの?」


 真神くんが声を掛けてくる。

 そちらに振り返り


「あ、大丈夫。気のせいだったから、気にしないで」


 彼に笑いかけて、私は彼の手を取って歩き出す。


 さぁ、今日は映画だ。




 まあ、おおまかな内容は知ってるんだけど。

 私は好きかな。

 事前予習として下調べしたんだけど、昔の映画好きが酷評してたのを見て、不安にはなってたんだよ。


 でもそういうの、その人の感想だしね。

 重ねて言うけど、私は好きだった。


「最後の方で助かったヒロインが、自分の名字を変えて名乗るとこ、良かったよ」


「ああ、あれは熱いね」


 映画が終わったので、2人で歩きながら映画の話をする。


 約束してたことだけど、これから私の服を選びに行く。

 彼の好みの服を選びたいよね。選べるんなら。


 そこで


「……のぞみ姉ちゃん、ぶっちゃけさ、普段ああいう映画、観るの?」


 じっと私を見ながら。うっ、見抜かれてる……


 正直に答えよう……


「……ロメロの映画……」


「……ゾンビ映画じゃん。……渋いね」


 だって人間ドラマが面白いんだから仕方ないじゃん!

 昔の映画好きが「ロメロの良さが分からないなら映画と言うものを幼稚園からやり直せ」って言うレベルなんだよ?


 そのあたりを力説したら、真神くんはフフッと笑って


「ゾンビ三部作で一番好きなのは……?」


 三部作……?

 それだと……


「わかんない……」


 そう、言ってしまう。


「そっか、分かんないのか……」


 そんな私の言葉に


「まあ、1作目がベトナム戦争、2作目が大量消費社会、3作目が……」


「そう、そうなんだよ! 全部良いから選べないんだよね!」


 思わず早口で言ってしまう。


 映画のテーマが深いから、題材が「ゾンビ」なのに、「こんな映画は不謹慎だ! 映画館で流すな!」って騒ぐ人から全力で作品を守る人が現れたんだよ。

 それで興味を持って、データを探して観たんだけど……実際、めちゃくちゃ面白かったから全部見て、ファンになってしまった。


 もう、だいぶ前に死んでしまった過去の人なんだけどね。

 この映画を撮った人。


 そこまで言って、私に驚いているようで


「なるほど……深くまで観るんだね。……ロメロはブラックジョークが良かったりするから、そっちを見る人多いと思ったんだけど」


 言って、少し考えて


「……じゃあ、次に映画館の洋画でロメロが来たら、一緒に行こうか?」


 感想会が楽しいと思うし。

 そう、言ってくれる。


「うん! 絶対行きたい!」


 そう、答えた瞬間だった。


「見つけた……」


 ……強烈な視線を感じたんだ。

 嫉妬と羨望、そして、怒り。


 私たちふたりはそれに同時に気づき


 振り返った。


 そこには……


 茶色のマントのようなもので、全身を隠している誰かが居た。

 男か女かは、分からない……


 ただ、その目の光だけがギラギラと輝いている。


 だ、誰……?

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