第42話 文化祭2日目・後編

 グラウンドの端っこで。 


 私と真神くんはずっと手を繋いでいた。

 あのとき、非巨乳女子たちの陰口を聞いてしまった私の手を握ってくれたときから、ずっと。

 私から離すことがどうしてもできなかった。

 だって……


 私は、真神くんを見る。

 彼は、現在校庭で準備されているキャンプファイヤーを見つめている。

 あともうちょっとで、点火される。


 それが終わったら、男女でフォークダンス。

 カップルの子は大体参加する。

 彼は今、そのことを考えているのだろうか?


 真神くん、どうしてあのとき手を繋いでくれたんだろうか……?

 そこを思うと、手を離せない。


 私の気持ちを理解してくれたのかな?


「のぞみ姉ちゃん」


 私の視線に気づいたのか、真神くんが私を見上げて


「僕と結婚したらどのみち特権階級になるようなもんだし」


 気にしても仕方ないんじゃないのかな?

 そう、言ってくれる。


 そう言われて


 ああ、そっか……

 分かってくれてるんだ。


 私がどこが辛かったのかを、ちゃんと気づいてくれたんだ……


「うん、そうだね。上級国民だもんね」


 私はそう答えた。

 笑顔が溢れた。


 すると


「……それはあまり公言しないでね。一応この国は全ての国民は平等な扱いだし。だからそれは一般には感じ悪い言葉だから」


 そういう、ギャグで言ったつもりの言葉を引っ張るのは止めて欲しいんだけど。

 そう、苦笑しながら言ってくれる。


 そのとき、キャンプファイヤーの点火。

 燃え上がる炎。


 その炎を囲む人の輪。


 音楽が流れて来た。

 フォークダンスに流れる有名な曲。

 名前は知らないんだけど。


「のぞみ姉ちゃん、行こう」


 ぐい、と引かれる。

 彼に誘われたんだから、行かなきゃね。


 一緒に輪に加わる。

 昔の体育祭なんかで踊られていたフォークダンスは、パートナーを次々変えてするもんだけど。

 このフォークダンスはパートナーを変えない。

 カップルで踊るのを前提にしてるからだろうね。

 だったら他のダンスにした方がいいんじゃないのかなと思うんだけど。

 そういうの、無かったんだろうか?


 なんてことを考えていたら……


 重要なことに、気づいた。

 身長差!


 フォークダンスは背の低い女性が、背の高い男性が上から手を繋いで踊るダンス。

 私たち、逆じゃん!


 わ、私が背を丸めれば……

 いや、無理でしょ!


 どうしよう……どうすればいいんだろう……?


 そんな感じで私が悩んでいると

 真神くんが


 スッと


 手を受け皿のように差し出して来た。

 ようは……


 女性ポジションでやってくれるんだ……


 真神くん……


 思わず胸が熱くなる。

 女の子の役なんて、やりたくないに決まってるよね……

 それなのに……


 こんなの、応えないわけにはいかないよね。


 だから私は男の子の役を買って出た。


 音楽に合わせて二人で踊る。

 踊りながら、真神くんが


「すぐに普通に踊れるようになるからね」


 そう、私に言ってくれる。

 その気持ち……嬉しかったんだけど。


 ……ホンの少し。

 残念な気がした。


 ……これ、犯罪者の思考?

 マズイな、これは……

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