第41話 文化祭2日目・前編

 2日目。

 今日は私は当番じゃ無いので真神くんと文化祭を回れる。


「のぞみ姉ちゃん、どこから回る?」


 真神くんに問われて、考える。

 色々あるよね。私たちの展示はふざけてるけど。

 他はちゃんとしてるだろうし。


 ……そうだなぁ。


「まず文化部を回ろうか」


 歴史研究部だとか、文芸部だとか。




「歴史研究部行ってみようか」


 隣を歩く真神くんにそう呼び掛ける。

 それを聞いて、渋る真神くん。


 ん……?


「興味ない?」


 そう訊くと


「んー、そんなこと無いんだけどさ」

 

 すごく言いづらそうに


「会話がさ、出来ない場合が多いって聞いてるんだよねぇ」


 んん?


「……のぞみ姉ちゃん、的外れだったらそう言って欲しいんだけど」


 腕を組んで、顰め面で


「歴史研究部って自説に固執してて討論できない人が多いって」


 親が。

 ……なるほど。


 言葉濁してるけど、多分お義母さんだよね。

 あの人だったらそういうこと言いそうな気がする。


 ……どうなのかなぁ?

 展示内容について、討論しようなんて考えたこと無いし。


「といっても、僕は実情は見て無いんだよ。今年中1だったのに、いきなり高2になったから」


 だから的外れである可能性は大いにある。

 どうなのかな? のぞみ姉ちゃん?


「うおおおお……真神くん。それは難しい問題だよ……」


 真剣に訊いてくれてるから、答えてあげたいけど……


 申し訳ない。わかんない……


 だから


「ごめんなさい。ちょっと分からないな」


 正直に言って、詫びた。




 そして、別の文化部の展示を見に行こうとしていたときだった。


 女子の声が聞こえてきたんだ。

 女子が2人、会話していた。


「……佛野さん、見た? 旦那さんと一緒に歩いてた」


「見た見た。すごくかっこいい人だった。不公平よねー」


 ……ああ、徹子は旦那さん連れて来てるんだ。

 あの人か……


 うん……そうだね。


 親友の旦那さんが褒められたんだから、私は嬉しかった。


 だけど……


「前の社会崩壊の原因が、悪堕ち巨乳の悪行の積み重ねによる次元崩壊なわけでしょ?」


「その悪堕ち巨乳になるかもしれないってだけで、人権を制限されてる気の毒な人、って言われてるけどさ」


 ここで、女の子の声に悪意が混じった。


「ぶっちゃけ、特権階級じゃんね。何が原罪を背負った苦行者、よ。特典多過ぎ」


「そうそう。小学校まではそれを信じてたけど、高校生になるとさすがに騙されないよねー」


 笑い交じりに。


 ……


 私は、悔しかったし、言い返したかったけど。

 多分、聞いて貰えないし。言うだけ無駄だ。


 すると……


 私の手を、ギュッて。

 真神くんが、握ってくれた。


 それが、私の心を勇気付けてくれた。


 だから……


 私の方も、彼の手を握り返した。

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