第38話 巨乳互助会の話・後編

 草麗満子そうれいみちこ。確かそういう名前だったっけ。この子。

 徹子より早く、確か半年で結婚決めて、巨乳エリートなんて呼ばれてたけど。


 その彼女が、この世の終わりみたいな顔をしている。

 確か小悪魔的な悪戯っぽい顔つきの巨乳だったのに。

 今は見る影もない。


「……どうしたの?」


 徹子が彼女にそう、問いかける。

 すると


「……離婚された……」


 えっ!?


 私は耳を疑った。


 確かこの子……


 どこで関係持ったのか知らないけど、資産家の次男(それも同年代)と結婚したって自慢してたから良く知ってるんだけど。

 次男でも実家のお金を引っ張れるらしく、ついでにいえば長男でないから将来家の妻の務めも果たさなくていい。

 勝ち組! って。


 なんでそうなったんだろうか……?


 すると徹子は


「アンタ、何かやったね? 浮気?」


 すっごい冷静に訊く。


「そんなわけないよ! そんなことしたら国外追放じゃん!」


 徹子の言葉に、反射的に返す満子。

 うん……そうなんだけど……


 結婚している以上、一方的に離婚はできないはずなんだよ。

 婚姻を継続できないことを何かやらかさない限り。


「……セックスの拒否だったら、未成年時代なら理由にはならないから違うしね」


 うん……そうなんだよ。

 一応、そうなってるんだよね……。


 未成年時代なら、巨乳認定証女子が旦那さんとエッチするのは違法ではないんだけど、拒否してもそれを理由にして離婚にはならないんだよ。

 成人したら、基本応じないといけないんだけどさ。そうしなければ離婚されても文句いえない。そこは普通の結婚と一緒。


 まあこれ、実際の運用はどうなのかな、と思うところはあるんだけど。


 ……じゃあこの子、なんで離婚されたんだろうか?


「……何があったのか話してみなよ」


 徹子がそう、促した。

 彼女は話し始めた……




「……いい加減にしてくれないかな?」


 いきなりダンナがキレたんだ。

 私が「アンタのザコ兄貴、どうせこのままじゃ一生童貞だろうからこの家絶えると思うんだけどさ、その場合アンタが長男になんの?」って訊いただけなのに。

 だって重要なことじゃん! 資産家のクソ面倒な長男の嫁の仕事をしたくないから、次男と結婚したのに! 目論見と違うなら、今から対策しとかないと!

 例えばザコ兄貴に養子取らせるとかさ! 私間違って無いよね!?


 そう言ったら


「……義理とはいえ、兄にざーこざーこって何なんだ? 敬意が無い。不愉快だ」


 全然私の話を聞いてない!

 ムカついたから


「離婚して欲しいの!? 結婚を承諾してあげたら泣いて喜んでいたくせに!」


 そう言ってやったら


「……それが脅しになってると思うなら、好きにすればいい……」


 そう、溜息混じりに言われたんだ。


 ……ムカつく……立場を分からせてやる!


 そのまま、離婚届を私の欄を全部書き込んで、叩きつけてやったんだ。

 私はいつでもオマエとなんか離婚できるんだからな! 反省しろ! って。


 そしたら……




「……離婚された……酷い……」


 泣きながら、彼女はそう話を締めくくった。


 ……うわぁ……


 私はドン引きしていた。

 この人、講習会で何を勉強していたんだろう……?


 徹子も渋い顔。


「アンタさ……」


 徹子は腕を組みながら話を聞き、言ったんだ。


「旦那のこと、愛してないよね。離婚されても文句言えないよ」


「酷い!」


 ワッと泣き出す。


「女は男に媚び諂えって言うの!? 男尊女卑! この国はおかしい! 狂ってる!」


 テーブルに突っ伏して泣く彼女。

 うん……巨乳には厳しい国だと思うけど……あなたもかなり狂ってると思うよ……私。


「何で媚び諂うことになるのさ……普通に愛するのに相応しい態度をとるだけの話……」


 すると彼女は、キッと顔を上げて


「旦那の機嫌をとって、旦那の世話を焼いて、いつもニコニコ!」


 そういうのを媚び諂うって言うのよ! そう言ってきた。

 すると


「……あ?」


 いきなりね、空気が冷えたんだ。

 徹子の眼が……氷のように冷たくなっていた。

 徹子に暴言吐いてたヒト族の痛女さん、徹子の様子を見て凍り付いている。


「……アンタ、女が自分の旦那に幸せになって欲しいと思って起こす行動を"媚び諂う"って言うんだ? ……それで良いんだな?」


「……い……いや、そんなこと言ってない……!」


 痛女さん、首を左右に振る。

 それを見て、徹子の怒りはいくらか収まったのか


 こう言ったんだ。


「……今後の身の振り方としては」


 ……元旦那に土下座するのが一番良いと思うよ。


 講習会でも言ってたけど、離婚後10カ月は婚活しても成果が出にくいらしいし。

 前の旦那の子供がおなかにいる可能性あるから、それを避ける意味合いで。

 医者が妊娠していないって言っても、絶対とは言えないからね。男側もなるべく避けたいだろうし。


 ……今から10カ月後って、ほとんどアンタ時間無いよね?


「……そんな」


 痛女さんは震えている。


「しょうがないじゃん。事実だし」


 ……だいたいね。離婚って相手との縁を切るってことなんだ。

 それを相手を黙らせる手段に使うって、理解に苦しむね。


 ……土下座しても許される可能性低いし、許されてもまあ、奴隷みたいな扱い受けてもしょうがないと思わなきゃね。


 そこまで言われて、真っ青になって震える痛女さん。


「大体アンタ、誤解してるよ。アタシらは高校卒業したら離婚の選択肢無くなる生き方強いられてるんだよ。結婚したらそこで終わりじゃないんだよ」


 ……そうなんだよ。

 私たちは高校卒業して独身だったら、誰かに求婚された場合に拒否できない。それはつまり、離婚の選択肢が無いってってことと同義なの。

 離婚できるなら拒否権あるってことになるもの。

 だから私たちは、それまでに「離婚を選ばなくいい男性」を選ばないといけないんだよ。


 それをこの痛女さん、あっさり結婚できたから気づかなかったんだね。

 可哀想……


 私は同情した。


 そして


「分かったらとっとと謝ってこい!」


 徹子の一喝。


 それを受けた痛女さんは真っ青な顔で、カフェを飛び出していった。


 ……あの子、復縁できるかなぁ?

 そう思い、彼女の行く末を私は案じた。

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