第35話 ご両親に挨拶に行ってみた3

「へえ、セイヴァーで対戦するつもり?」


 この言葉を言ったとき。

 お義母さんの眼が細くなった。

 再起動。それが一番適当な気がする。

 なんか生気が戻った感じ。


 続けて、言った。


「一軍の持ちキャラは?」


「ミイラ男のアナ〇リスです」


 そう返答すると、お義母さんの口角が上がって


「……奇遇ね。私も一軍はアナ〇リスよ」


 なんと!

 と、思った。


 アナ〇リス、動きトロいから使う人あまりいないのに!

 一気にお義母さんに親近感を持ってしまう。


「さっそくやりましょう」


 お義母さんは乗り気だった。

 おお……


 やっぱ、知らない人と対戦するのはドキドキするよ……


「セガサ〇ーンはどこですか?」


「テレビの横ね」


 テレビがこのリビングに1台あって、その脇。

 箱があって……


 ああ。


 セガサ〇ーンの箱じゃん。

 白い段ボール箱で、セガサ〇ーンの絵が描かれている。


 うーん……


 どこまでやるべきか。

 私、お客さんでいいのかどうか怪しいし。


 嫁候補でこの家に来てるのに、この家の人にセガサ〇ーンをセットさせるのはマズいよね。

 でも、まだ他人の家のセガサ〇ーンをセットするのってどうなんだろうか……?

 セガサ〇ーンって、その家の宝である面あるよね……?


 ここはどうしたらいいのかな……?


 数瞬考えて、決断……しようとしたら。


 サッと動いたのは真神くん。

 セガサ〇ーンの箱を開けて、中のハードを出す。

 コードを出して、テレビに接続して、そして……


 何か! 何か手伝えることは!?


 そうだ!


「お義母さん! パッド派ですか? ジョイスティック派ですか?」


 アーケードに慣れてる人はパッド駄目な人、結構いるんだよね。

 私は両方イケるんだけど。


 ……お義母さんはどうなんだろうか?


「両方イケるけど、強いて言うならジョイスティック」


 ジョイスティック……


 サターンがあそこにしまってあった。

 ということはおそらく、ジョイスティックも近くにあるよね?

 どこだ……?


 目を皿のようにして見回して……

 テレビの下のテレビ台。

 そこの収納スペースに……あった!


「失礼します!」


 一言断って、テレビ台の収納スペースを開く。

 勝手にはできないもんね。他所の家なんだから。


 そしてジョイスティックを出そうとしたら


「のぞみ姉ちゃん、お客さんでいいからじっとしてて」


 ……言われてしまう。


 いやでも、ダメでしょ。

 ただの彼女ならそれもアリなのかもしれないけどさ。


 なぁんもしないでジッと待ってるのって、受け身じゃないのかな?

 親友の徹子には「相手に尽くせ」ってことと「受け身になるな」ってことを言われてるし。

 講習会でも似たこと教えられたし……


 でも、真神くんがそういうなら……


 ここは引き下がるしか……


 すごすごと引っ込んで


 自分がさっきまで座っていた席に座ろうとして……

 いや、座っちゃダメでしょ。


 そう思い、立つ。


 そしたら……


 お義母さんが、テレビに向き合う位置取りのソファに移動して。

 そこにスッと綺麗な所作で腰を下ろして。

 隣をね、ポンポンと叩いてくれたんだ。


 ……心がパァ、と明るくなる。


「失礼します」


 モノを壊したりしないように、気をつけながら歩いて。

 そっと腰を下ろした。

 スカートが変な風にならないように気をつけながら。


「ほら、接続完了したよ」


 真神くんの言葉。

 拡張RAMも挿入してくれてる。


 ……いにしえのユーザーからの「復刻するならパワーメモリーを何とかして欲しかった」「拡張RAMも内蔵できる構造にできなかったの?」って声を雑誌で読んだけど。

 私、格ゲーしかしてないから、パワーメモリーがどれほど酷いのかは知らないんだよね。でも、それが改善されてないんだよね?

 ……良くないんじゃないのかな?

 でも「電池不要の構造にしてくれたのは本当に感謝」ってのもあったから、良くはなってるんだろうけど。


 まぁ、それはそれとして。

 今は


「ありがとう」


 お礼は言うべきだよね。

 

 すると真神くんは


「……これぐらい良いよ」


 そう言って、引っ込む。

 うう、役に立てなかった……


 そんな私に、お義母さんが


「じゃあ、やりましょうか」


 自分のコントロールパッドを持ち。

 対戦を持ち掛けてきた……



 結論から言うと、負けた。

 お義母さんのアナ〇リス、次元が違った。

 私はアナ〇リス使いでは無かったんじゃないかと思うくらい、ボコボコにされた。


「……参りました」


「まだまだ技の繋ぎが甘いわね。無論、チェーンコンボって意味では無いわよ?」


 上には上がいるんだなぁ。


 で、次の対戦になったら。

 お義母さんは……赤ずきんのバレ〇タを選んできた。


 ……絶対二軍以下だ……


 そう思ったけど。

 私は……


 サキュバスのモリ〇ンを選択。


 その選択に


「へぇ……」


 そして、お義母さんが試すような声でこう訊いてくる。


「それ、二軍?」


 ……うっ。

 見抜かれてる……!


 だけど


「……二軍です。二軍ですけど、キャラクターには相性もありますよね?」


 お義母さんを見ながらそう言い返す。

 するとお義母さんは


「それはそうね」


 楽しそうに笑いながら、ゲームに向かって行った。

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