第34話 ご両親に挨拶に行ってみた2

 真神真霧さんは私をすごい目で見てる。

 見下げ果てたケダモノを見る目で。


 その目は……覚悟してた。


 私も決断する前にだいぶ考えたもん。


 だけどさ……


 真神くん。絶対に素敵な男の子だと思うんだ。

 だからこの決断、間違ってないと思うんだよね。


 普通の中1の男の子だったら、これは絶対に無かったって言いたい!


 私が真神くんの告白を受け入れたのは、何にも恥じることなんて無いんだから!




 そう思ったから


 こう言った。


「こんにちは……将来、お義姉さんって言う事になるのかな?」


 冷たい目で見てくる真霧さんに、私は正面から見つめ合ってそう挨拶をした。

 すると


「……まだあなたにお義姉さんなんて言われたくないんだけど? オバサン」


 めっちゃくちゃ冷たい目でそんなことを言われてしまった。


 ……オ……オバサン?

 私はまだJKなのに……。


「まあ、コーヒーを飲んで、ウチの両親に挨拶したら帰ったら? 未成年の真虎との結婚なんて、両親の了解が必要なはずだし、無理よねどう考えても」


 鼻で笑いながらそんなことを言って来る真霧さん。

 それに対して私は……


 ……真霧さん……そこは誤解してるよ。

 巨乳認定証の関わる結婚は、例えそれが未成年であっても、その保護者の了解取る必要は無いんだよ。当人同士の同意と、保証人を規定数集めれば成立してしまう。

 成人と同じものなんだよ……。


 そう、訂正したかったけど。

 お義姉さんとの関係をちゃんと築きたいから、私はその言葉を飲み込んだ。


 罵り合いたくない。だって、将来お義姉さんになるかもしれない女性だから。


 そう思って、耐えていたら


「……ありがとう」


 横で真神くんが、そう言ってくれた。

 これはまずいよ……真神くん。


 結婚を意識して付き合ってるから、こんな彼の気遣いひとつひとつがどうしても気になってしまう。


 真霧さんは、言い返してこないのを不審に思ったのかどうなのか……しばらく厳しい目で私を見つめながら……テーブルの席のひとつに腰を掛けた。


 そして重い沈黙。

 正直、辛い……


 あまりに辛過ぎて、気分を変えるためにコーヒーに口をつけた。

 カップの取っ手の持ち方に気を配りながら。

 マナーを取られるかもしれない、って思うと、そこがどうしても気になってしまう。


 すっかり冷めて、ぬるくなってるコーヒー。


 ちょっと、勿体ないことをしてしまったと後悔。


 すると


 また、ガチャ、とドアが開き。

 男の人と女の人が入って来た。


 おじさんとおばさんだ。


 まあ、普通のおじさんおばさんに見えなかったんだけども。




「ほぉ、明るくて性格良さそうな子だな」


 おじさんがそう言ってくれた。

 見た目は……佐上くんにかなり似てる。

 でも、この人の方がちょっと地味。

 だけど……なんか迫力を感じる。

 この人、本気で怒らせたら手が付けられなさそう、っていう。


 多分この人が真神くんのお父さんだよね。


「……よろしく。真虎の母です」


 そうして言葉少なめに挨拶して来たのは、真霧さんにかなり似た女性。

 年齢は絶対にアラフォーなんだけど、綺麗。

 お金持ちのお嬢様の成れの果て、みたいな印象を受けた。


 ……この人が、真神くんのお母さん……。


 なんか2人とも、来てる服が……


 背広と女性用スーツなんだよ。

 これは……


 私と会うことを、そこまで重く受け止めてるってことなのかな?


「はじめまして。高野のぞみと申します。庶民の家の子ですが、真神くんと結婚を前提としたお付き合いを……」


 深々と座ったまま頭を下げて、やっぱ立った方が良いかと思い直し、立ち上がってもう一度礼をする。


 すると。


「そんなに硬くならなくても良いよ」


 そう、お義父さんの方が言ってくれた。

 ……優しい。


 お義母さんの方は……

 なんというか、無表情。

 さっきからずっとなんだけど。


 真神くんのお母さんなんだし、出来ることなら真っ当な関係を築きたい。


 ここで……


 そう言えば……


『久々に負けたよ。家で家族相手に戦うときは、母さん以外負けないんだけど』


 はじめて真神くんに会ったとき。

 そんなことを言われた気がする。


 ……だったら。


 くっ、と気合を入れる。

 これから気合を入れる必要のあることを言うから。


 ……よし!


 スゥゥ、と息を吸い。

 言った。


「お義母さん。セイヴァーで対戦しましょう」


 ……なんだか、これが一番私を分かってもらえることのような気がした。

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