第33話 ご両親に挨拶に行ってみた1

『母さんと父さん、ちょっと忙しいんだけど、のぞみ姉ちゃんのことを話したら是非会いたいって』


 真神くんからメールが来た。

 先日のご挨拶の話だ。


『そうなんだ。いつ行けばいいのかな?』


 その日を想像して緊張しつつ、返す。

 するとすぐに返信。


『明後日の正午にお昼ご飯食べながら話をしようって』


 明後日……か。




 来てしまった。

 この日が。


 ……服装はめちゃめちゃ悩んだ。

 デート服は多分違う。

 こういう場合、大人はスーツで行くんだよね?


 だったらさ……


 私は、制服を着ることにした。

 京都第一高校の制服のセーラー服。


 学生のうちはこれが正装扱いでいいんじゃないかな?


 そして私は夏休み中にも関わらず制服姿で真神くんの家である「佐上家」を訪問して。

 インターホンを押した。


 ピンポーン。


 ……緊張で……あっつい。

 汗が……


『どちら様でしょうか?』


 インターホンからの声。

 これはメイドさんかな?


 私は深呼吸して


「高野のぞみです。真神くんのご両親にご挨拶に来ました」


 言い終わって、食い入るようにインターホンを見つめる。

 すると


『承知しました。お待ちください』




 テーブルのある部屋……つまりリビングに案内された。


 応接室がこのお屋敷に無いのか……それとも、お客扱いじゃないってことなのかな?


 テーブルの席に座らされて。


 飲み物はコーヒーを出してもらえた。

 ちょっと、飲んでいいものかどうか、迷う。


「別に飲んでいいよ。のぞみ姉ちゃん」


 ボソ、と隣に座ってる真神くんが教えてくれた。

 真神くんは私服。上等っぽい白いシャツに、黒い吊りズボン。


「そんなに気にしなくていいよ。母さんの家は確かに旧家なんだけど、父さんは空手道場の家だし」


 ようは庶民の家に挨拶に来た感覚で良い、って言いたいのかな?

 でも、こんな大きな家で……!


 迷っていたら。


 リビングに子供が2人入って来た。

 男の子と女の子。

 男の子は緑のTシャツに半ズボン。

 女の子はピンクのワンピース。

 そしてどうみても小学生だった。


「真虎おにい、この人誰?」


「月心おにいの友達~?」


 ……えーと。

 この子たち、真神くんの弟と妹?

 顔立ちなんか似てる気がするし。


 確認するように真神くんを見ると


「……兄ちゃんの恋人」


 笑顔だったけど……ハッキリ言われた。

 すると……なんかドキッとした。


 言い方がね、テレとか誤魔化しとかない感じで。

 かっこよく感じたんだ。


 ……ああ。なんというか。

 ひょっとして……

 巨乳認定証もちの女の子に、交際を申し込むことの意味を一番理解しているの、真神くんなのかもしれないな。

 私よりも分かってるのかもしれない。


 よく考えたら、この状況で「恥ずかしい」とか「照れる」っておかしいんじゃないのかなと思わないでも無いし。

 だって結婚ってものすごく大事なことだよね? 楽しむためにするのは何かおかしいと思うんだよ。私は。

 家庭を持つってことなんだから。

 家庭を持つことを「恥ずかしい」「照れる」っておかしくない?


「真虎おにい、結婚するの~?」


 女の子の方が興味津々な顔で聞いてくる。


 それに対し


「うん。上手く行けばするかもしれないね」


 ど正面で返答……

 ヤダ、ちょっと……


 真神くん、家族に対してはこんな感じなのか……?

 それとも、現在は恋人状態なのは事実だから、事実を言うのには何の抵抗も無いってだけなのか……?


 ちょっと良く分かんないな……!


「じゃあ、お嫁さんなんだね!」


 すっごいキラキラしてる。

 このくらいの子はそういうの、憧れるのかなぁ……。


「お姉さん、名前は~?」


 男の子の方が訊いてきたから


「高野のぞみと言います……よろしくお願いします」


 子供相手に敬語で返してしまう。


「ボク、佐上竜太!」


「ワタシ、月子!」


 ……なるほど……


 竜太くんに月子ちゃんね……


 そういう風に、名前をインプットしていたら……


 バタン!


 とドアを開閉させて。


 目を三角にしたロングヘアのクール系女子……真神真霧さんが入って来た。

 私に厳しい視線を……犯罪者を見る目を向けながら。

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