第28話 一緒に勉強

 夏休み突入。


 最初の一週間は課題をずっとやってた。

 真神くんの家で。


 ……いやさ。

 最初は図書館でやろうと思ってたんだけど。


 飲食がね、図書館は出来ないから。

 お昼過ぎてから、一旦外にパンだとかおにぎりとかを買いに行かないといけないし。


 そうして帰ってくると席が埋まってる。

 そういうことが何度かあって。


「家でやると誘惑多いしなぁ……」


 そう、自習スペースを埋められて追い出されて、私は途方にくれていた。

 図書館前で。


 すると


「……のぞみ姉ちゃん何かあったの?」


 真神くんが通りかかったんだ。




 で、事情を説明したら。


「自宅でやると誘惑多いって……」


 そこがよく分からないらしく


「他の家族の監視のあるところでやればいいのでは?」


「私、一人っ子だし、両親今家に居ないから」


 私の言葉を聞いて、そっか、と返してくる。

 仕事にパート。庶民は忙しいわけですよ。


「ん~」


 真神くん、ちょっと考えて。

 こう言った。


「……ウチ来る?」


 私は顏を上げて、驚いた。


「いいの?」




 で。

 再び、佐上家のお屋敷にやって来て。


 リビングにある大きなテーブルで課題をしていた。

 ちなみに2人きりではなく。

 もう1人いた。


「真虎、ここの問題は分かる?」


 ……真虎くんの姉の、真霧さん。

 何故か、一緒に勉強している。


「姉ちゃん、そこの問題はその2つ前の問題の応用だね」


 ……私たち2人、真神くんに指導を受けている。

 真霧さんが何をしてるのか分からないけど、私は……英語をやってる。


 ちょっと和訳の問題に疲れてきたので、何の問題をやってるのかなぁ? と。

 覗きに行くために、身を乗り出した。


 どれ……?


 覗くと、それは数学の問題だった。

 どういう問題なのかな……? と見ながら考えていると。


 いつの間にか、ふたりがこっちを見てて。

 特に真霧さんが目を三角にしていた。


 そして


「見えてますよ!」


 言われて、首元に指を指された。

 着ていた青のTシャツの襟首を。


 そこで気づく。


 ……襟首から思いっきり胸が見えていた。

 ブラはしてたけど、これはさすがに恥ずかしい。


 慌てて姿勢を正して


「……申し訳ありません」


「これだから巨乳は!」


 真霧さんが小さい声で毒づくのに気づいてしまう。

 巨乳は害悪をまき散らすという言葉を少し思い出した。

 最初、巨乳の集いに出たときに聞いた話を。


 ……こういうところから、巨乳の悪行が始まってしまうものだろうか?




「あのさ」


 真神くんが私の和訳を見ながら、訊いてきた。


「のぞみ姉ちゃん、ひょっとして英単語、意味で覚えてる?」


「……意味?」


 言われてる意味が分からなかった。

 ……意味? 意味ってどういうことだろうか?


「どういう意味?」


「……辞書に書いてある意味ってこと」


「ああ」


 ようは、例えばhaveなら「持っている、備わる、手に入れる、受け入れる、経験する、過ごす」ってことか。


「それをそのまんま覚えてるでしょ?」


「……それが悪いの?」


 そう、問い返すと


「英語は僕らの言語とは別の言葉なんだから、僕らの使ってる言葉と全く同じ解釈になるとは限らないんだよ。だから……」


 辞書に書いてある意味を丸暗記だと、和訳が硬くなるんだ。

 あと、文章の把握もしにくくなってくる。

 柔軟さが足りなくなるんだね。


 ……ちょっと難しかったけど、なんとかギリギリ言われていることを理解できた。

 ようは「辞書に書いてある"意味"は、私たちの言葉とイコールじゃ無い、フィーリングだ」ってことなのか。


 まあ、その辺は無意識で理解はしてたけど、まともに考えて勉強はしてこなかったなぁ……。


「じゃあ、どうすればいいの?」


 ずい、と顔を寄せる。

 すると真神くん、ちょっと仰け反る。

 そして


「ちょっと、近い」


 注意された。


「あ、ゴメン」


 戻す。そしたら


「概念で覚えるのが一番良いと思う。例えば、haveは"持つ"じゃなくて"所有する"なんだよ」


 ……なるほど。

 持つ、って言うとどうしても「手を使う」ことがイメージで入るけど、所有する、だったら不純物がかなり少なくなるよね。


 真神くんの話を聞いていて


 ……英語って面白いかも。

 思わず、そう思ってしまった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る