第27話 期末テスト

 期末テスト。


 3日間の予定で、学生にとっての修羅場。

 ここを乗り越えれば、楽しいテスト休みだ。


 数学、化学は普通に出来た。

 物理の問題が難しかった。


 意味わかんないんだけどさ。

 私、数学は普通にできるのに何故か物理がメッチャできないんだよね。

 英語はそれ以上にできないんだけど。


 異常者扱いされそうだったから、物理の件は真神くんにも相談できなかった。

 独力で頑張った。


 公式を必死で覚えたから、なんとか答案は埋めたけど……

 結果はどうなるんだろうか?


 そして最終日。


「あー!」


 終わったので、思わず叫んでしまった。

 すると前の席の徹子に


「気持ちは分かるけど、それはダメ」


 振り返られて、暗に「うるさい」と言われる。

 ……ごめんなさい。


「……徹子はテストどうだった?」


「まあまあかな」


 まあまあ、か……

 私は大体100位前後をウロウロしてるんだけど……

 徹子は50位から60位くらいなんだよね。

 まあまあなら、50位前後なんだろうか。


「アンタは?」


 今度は私が訊かれる。

 そうでしょうね。自分も訊かれるよ。

 他人に訊いたんだし。


「……英語の出来次第かなー?」


 英語はかなり頑張ったし。

 上がってると嬉しいよね。




「夏休みに、伊勢に行くんだよね」


 学校から下校途中の寄り道。

 ドーナツ屋に立ち寄って、ドーナツとコーヒーで話をしていた。

 期末終わったから、夏休みの話題。


 徹子は伊勢に行くらしい。

 なんか嬉しそう。


「神社行くの?」


 伊勢神宮に行くのかな? と思ったからそう言ったら

 彼女は頭を振って


「いや、海に」


 海~?


 あの海、昔はどうだか知らないけど、今はメジャー中のメジャーの海だよね?

 レジャーの場として。


 なんでなんかな、と思うんだけど……

 特に男の子に人気なんだよなぁ……


 ……あの国のさ、上流階級が遊びに来るんだよね。伊勢の海は。

 あの国は知っての通り法律が無いし、倫理観も無いから、その……

 

 向こうの上流階級の女の子、あまり身持ち硬くないらしくて。

 ナンパに成功したら、高確率でエッチできる、っていうんで。

 人気なんだって。知らんけど


 向こうの人間は怖いけど、それはその「法律も倫理観も無い」行動が完全正当化できる「向こう」の土地でないと成り立たないから。

 こっちに遊びに来てるときはそこまで気にしないでいいわけですよ。

 いくら向こうの人間でも、こっちの法律に従わないと逮捕されるから。


 そんな伊勢に徹子は行く、と……。

 ナンパされるんじゃ……と思ったけど。

 そういや、左手の指輪問題があるよね。

 既婚者をナンパするヤツはほぼ居ないんだよねぇ。

 昔と違って。

 昔は居たそうだけど、今は居ない。


 まあ、ナンパしてもエッチはできないんだからそうなるよね。

 もしエッチして相手の旦那さんにバレたら、慰謝料を請求されるか、下手するとその汚嫁と一緒に国外追放だし。

 リスク高すぎて、ちょっと考えられるならやんないよ。


 なんて。

 向こうの海事情を考えていたら。


「アンタも一緒に来ない? ……実はさ、ちょっとウチの旦那を紹介したいんだよね。どう?」


 無理にとは言わないけど。アンタはアンタで忙しいだろうし。

 そんなことを言われた。


 徹子の旦那さん……正直、メッチャ興味ある。

 どんな人なのか会ってみたい。


 今まで拾った情報からすると……


①剣道部の主将。

②読書家。

③遊ばないで延々稽古してるか勉強してる。

④徹子にとってのデートは彼の家に行き、彼の家族の手伝いをしながら彼の世話をする。


 ……どういう人だよ、と思ったけど。

 あまりうっかり突っ込んで地雷踏んだり、惚気ポイントを踏み抜いて延々話を聞かされるのが嫌なんで、今まであえて質問はしないで来たんだけど。


 会うチャンスが巡って来たのかぁ……


 コーヒーにミルクを入れてくるくるしながら考えて。

 口をつけながら


 決断。


「うん。私も行きたい」


 そう、返答。

 実物を見せて貰えたら、男性選びの正解パターンってどういうものなのかを理解できるかもしれないし。

 興味あるし、期待もある。


 私の返答を聞き


「そっか。じゃあ、後で詳しい日取りと時間については教えるね」


 徹子は嬉しそうだった。




「えーと」


 期末テストの結果が出た。

 順位が昇降口前に貼り出されてる。

 スペースの関係で100位までなんだけど。

 それ以下の人は、先生に頼めば教えて貰える。


 つまり、ここに載ってなかったら100位以下。


 自分の名前を探すと……


「あった!」


 高野のぞみ……93位。


 なるほど……腕を組みながら、自分がさらに上を狙えた可能性について考える。

 何が足を引っ張ったんだろうか……?


 徹子は……


 次は徹子の名前を探す。

 徹子、徹子……。


 あった。


 佛野徹子……52位。


 なるほど……。


 と、親友の順位を確認した後。


 ここで佐上くんと真神くんの順位について気になった。


 真神くんは「兄より僕の方が勉強できる」って言ってたけど。

 実際はどうだったんだろうか?


 私は1位を確認した。

 するとそこにあった名前は……


 1位 真神真虎 500点


 2位 佐上月心 497点


 ……マジだった。


 これ、どうなるんかな……?

 色々、ふたりの反応を想像していると。


「あ」


「おお」


 男の子の声。

 聞き覚えのある声だ。


 振り向くと……


 佐上くんと真神くん。

 ふたりで並んで順位を見てる。


 その表情は……


 別に悔しそうな、とか。してやったり、みたいな。

 そういうの、無い。


「まあ、よくやったな」


「僕もヤバかったよ。3点差じゃん」


 兄弟でそんなことを言いながら、笑い合う。


 そこでちょっと、分かってしまった。


 ……ああ、これ、対戦なのか。

 その程度のことなんだ。このふたりの間では。


 格闘ゲームで負けても悔しさってあるけど、別に憎悪まで行かないもんね。

 その程度のことなのか。


 ……優秀な人の世界って、スケールが違ってくるから、こうなるのかなぁ?

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