第26話 真神くんのお部屋

 真神くんの家は、典型的洋館だった。

 和室、無いのかな……?


「この御屋敷、全部洋室なの?」


 そう、思わず聞いたら


「んにゃ、道場だけは洋室とは呼べない」


 先行する真神くんが、振り返らずに教えてくれた。


「……父さん、空手家なんだよね」


 そう、ポツリ。


 ふーん、とか思ったけど。

 ……空手家って、儲からないよね?


 ひょっとしてこの家、不動産で食べてるのかな?


 そんなことを考えた。


 すると……


 向こうから、女の子が歩いてくる。

 年齢は私より少し下。

 高1か中3くらい?


 髪型は背中に届くくらい長いロングヘア。

 手入れは完璧で、黒で、輝いてた。

 服装はお嬢様の制服、みたいな。

 黒の、一見して上等なのが分かるワンピース。

 顔つきは冷たさすら感じるクールな感じで

 相当な美人。


 その子が


「……真虎、この人は?」


 私を見て訊いてきたので


「友達の高野のぞみさん」


 そう、紹介してくれる。


「初めまして。真神くんの友人です」


 頭を下げた。

 すると


「……巨乳」


 ボソ、と何か言われた。

 良く聞こえなかったけど。


 え?

 と顔を上げると


「私は真神真霧まがみまぎり。真虎の姉です」


 言って、彼女の方も頭を下げてくれた。

 そして、去っていった。


 真虎くんの方も歩き出す。

 ついていく私。


 歩きながら……


「……姉ちゃんは、僕だけ養子って可哀想だ。私もお爺様のところに養子に行く、って言ってくれて、姓を変えたんだ」


 ……そうなんだ。

 弟想いのお姉さんなんだね……


 そして。


「ここだよ」


 部屋に着いた。

 ドアを開けてくれたので、入らせてもらう。

 そこには……


 意外に、ポスターの類は貼ってない部屋。

 そして壁一面が本棚になってて。

 ほとんどが、漫画でも小説でもない、難しい書籍。

 私の乏しい知識だと自信ないけど……

 思想系の書籍が多い気がする。それ以外は、神話や民俗学の本が多いような……


 あ、と思った。


 思想系の本に「韓非子」「論語」を見つけたからだ。

 世界史の授業で聞いたワード。


 ……なんだか奇妙な気分になるなぁ。


 今はあの国、どうなってるか分からないのに、その国発祥の本はあるなんて。


 そんな私の背中に


「のぞみ姉ちゃん、この参考書だよ。赤線引きまくってるから分かりやすいと思う」


 真神くんが、目当ての参考書を持ってきてくれた。

 慌てて振り返り


「あ、ありがとう! ……すごい本だね? 読書、好きなの?」


 参考書を受け取りながら、そう訊いたら


「……いや? 単に必要だから読んでるだけ」


 首を左右に振られた。

 え? ……好きでもない本を読むことができるの?


 すごい……!


 素直に、興奮する。


 私だったら、興味も無い本なんて、数分持たないんですけど。

 根性持たなくて読めなくなるか、寝ちゃう。


 すごいな……多分、それは大人の行動だよね……!




 ……そうして。

 佐上くんとの接点はちょっと持てなかったんだけど。

 真神くんを良く知ることが出来て、私としては面白い佐上家訪問だった。

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