第24話 体育祭
体育祭。
講習会で配布された、いにしえの少女漫画では、体育祭の熱狂に紛れて想い人の連絡先を手に入れるべし、ってあったけど。
無理だよね?
私たちの関係性では?
ただのマネージャーと部の主将の関係だし。
『次の種目は認定証所持者対抗400メートル走です。出場者の方は至急お集まりください』
なんかあの少女漫画みたいないい方法は無いもんかと考えていたら、呼び出しがかかった。
『2年D組、佛野徹子、高野のぞみ。以上、2名の方お集まり下さい』
いかなきゃ。
集合場所に行ってみると、先に徹子が来ていた。
「この間のジムは大変だったよね」
彼女は、体操服であるブルマの食い込みを直しながら私に訊く。
「そうだよね。いきなり巨乳警察が踏み込んでくるんだもの」
怖かったよ。
国家権力の行使者が来るのって。
だって、何かの間違いで法律違反していると判断されたら逮捕されるってことだし。
怖い。
一応、法律というものについては講習会で勉強してるけどさ。
「法律とは、この世に理想を齎すために賢者が考えた願いであり、祈りである」
「……ああ、法律講座の最初に講師が言ってた言葉だよね。そこは感動的だと思ったし、好きなんだけど」
怖いものは怖い。
言いながら、私もブルマからはみパンしてないかなとチェックした。
……私たちだけブルマなんだよね。
他の女子は短パンなのに。
位置について、ヨーイ『パァン』
ピストルの音を合図に、私たちは走り出す。
徹子は速い。
ぶっちぎりだ。
走るフォームも綺麗だし。
対して私は、頑張ってるんだけど、全然。
ぐんぐん引き離されて、決着がついた。
私が2位で、徹子が1位。
これでD組には1位と2位の点数が入るんだけど……
「この競技、D組に超有利だよね。いいのかな?」
「……いいんじゃない? 発案者、アタシたちじゃないじゃん」
1位と2位の旗の下で座りながら、私たちはヒソヒソ会話する。
まあ、別に自分から提案してこんなインチキくさい競技をしてるわけじゃないんだし。
いっか。深く考えない様にしようっと。
そして、認定証所持者対抗障害物競争(ネットと跳び箱の繰り返し)が終わったので。
私たちのクラスの占有スペースであるブルーシートに戻ってみると。
男子がほとんど居なかった。
ガラガラ。
残ってた数少ない男子の真神くんに男子の行方を訊いてみる。
「男子はどこに行ったの?」
「……トイレじゃない? 知らんけど」
……連れションってやつ?
まあ、いいか。
三角座りで座ってる真神くんの隣に腰を下ろして。同じく三角座り。
ほぼ2人切りで、他の競技を見る。
他の生徒たちが、走ったり跳んだりしている。
……沈黙。
ちょっと、間が持たなくて
「……やっぱ、お兄さんと名字違うって思うところあったりするの?」
言ってしまってから、しまった、と思ってしまった。
ものすごくプライベートなことをうっかり聞いてしまった!
そう思ったから
「ごめん! うっかり!」
慌てて謝罪する。
こんな話題、間を持たせるために話すことじゃないし!
すると
「ああ、別にそういうの良いから。気にしないでのぞみ姉ちゃん」
頭を下げた私に、真神くんがそう言ってフォローしてくれた。
「……疎外感を感じてた時期は確かにあったけど、まあ……」
両親が佐上姓だからそれでいいかなぁ、って。
両親の姓が揃ってないのは何か気になるけど、子供の姓は最終的に嫁に行ったり婿に行ったりでバラバラになるじゃん?
じゃあ別にそんなに重要性無いんじゃ無いのかなと思ったんだ。
……なるほど。
そういう考え方もあるのね。
私は少し感心した。
「あと、まあ、上流階級は養子って別に珍しいことでも無いんよね」
だから余計、大した問題じゃないかもしれないって思うようになった。
聞いて。
……この子、強いんだな。そう思った。
自分の境遇を憐れんで、僻むんじゃなくて、考え方を切り替えてより良い回答を出している。
ここまでの語り口も、ただの回想。
そんな感じの顔つきだった。
大人じゃん……
飛び級するだけ……あるよ。
「のぞみ姉ちゃんさ」
そのまま一緒にいたら、ボソリと、彼が発言した。
そちらを見ると……彼はこちらに視線を投げないで、競技を見守っている。
「毎日婚活忙しいよね?」
えーと……
まあ、忙しいかな?
私は頷く。
すると
「……フリーの日を知りたいから、電話番号かメールアドレスを知りたいんだけど」
フリーの日……? ああ、予定の無い日を知りたいのね。
何で……?
そのへんを訊くと
「対戦したくても相手が居ないと出来ないでしょ?」
……対戦!
そうだなぁ……。
予定を詰めないと、都合よく出来ないかもね。
真神くんとの対戦は楽しいからなぁ……
油断すると負ける相手だからね。
戦い甲斐がある。
……だから
「……今は手元にスマホが無いから、後でね」
そうして。
私は、体育祭が終わった後、帰宅する前に。
真神くんとメールアドレスを交換した。
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