第23話 偽物は許さない

 京都市内のスポーツジムにやってきた。

 もうすぐ体育祭だから、鍛えておこう。どうせタダだし。

 そう、徹子に誘われて。


 ちょっと久方ぶりにやってきた。


 ……タダだと逆に行かないんだよねえ。

 徹子は定期的に行ってるみたいだけど。


 ホント、優等生って意識高いわぁ……。


「体育祭で目立ったら、興味持ってもらえるかもしれないよ?」


 ……うーん。

 言いたかないけど……


 それは、私たちが走る姿に興奮した男の子が、衝動的に口説こうとしてくる、だけなんじゃないのかなぁ?

 何で? と言われると答えづらいけど……。


 ゆっさゆっさとか。

 ぶるんぷるんとか。


 そういう感じで。


 で、受付。

 青い制服シャツ姿の男の人と女の人が


「どうもこんにちは!」


 挨拶してくれた。

 私たちは、それぞれ財布だとかカード入れだとかから、巨乳認定証を出してきて


「これがあります」


「同じく」


 そう、提示。

 すると


「あ、巨乳のお客様ですか。そちら、ライセンスはもうお作りですか?」


 ……ライセンス……?


 あ、そっか!


 これでクリアできるのは料金の支払いだけで、使用許可は別なんだっけ!


 よく見ると、徹子は巨乳認定証以外にもスポーツジムのライセンスも出してるわ!


 久々でライセンスというものの存在を忘却していた私は、慌てて鞄の中を探り回した。




 上は青い色の、汗をべた付かせないトレーニー御用達のシャツ。

 そして下は膝までの、黒いスパッツ風のスポーツウェア。


 そんな格好で、首にタオルを引っ掻けて、ランニングマシンで突っ走る。

 ……まず走って身体を起こす。


 その後、マシントレーニングで主に足を鍛えるつもりで今日は来たんだけど……


 ハッハッハ……


 隣のマシンで徹子が走ってた。

 ちなみに走る速度は彼女の方が速い。


 彼女の格好はスポーツブラとスポーツスパッツ。

 色は黒。


 彼女、背が高くて手足も長いから……メッチャ似合ってる。


 見てて、私の頭で展開されたのは……


「……高野のぞみなど、巨乳四天王の中では全くの小物……」


「何故アイツが巨乳四天王になれたのか全く分からぬ」


 そう、巨乳狩りに敗れた私が他の巨乳四天王に罵られる姿だった。

 その中で、徹子はその巨乳四天王の筆頭だった……。


 私はEだけど、徹子はGなんだよなぁ……




 一通りトレーニングが終わったので。

 ヨガルームで、終わりのストレッチをしてたんだ。


 ヨガマットを借りてきて、前屈とか、開脚とかね。


 計3人でやってたんだけど。

 私と、徹子と、妙齢のお姉さん。

 そのお姉さんも、わりと胸が大きかった。


 ……認定証もちかな?


 ふと、頭の片隅で考える。

 胸の大きい人を見つけたときの、当たり前の思考。


 そして前屈で、自分の顔と胸を脚に押し付けていたら。


 ドカドカドカという騒がしい音がして。

 人が踏み込んで来た。


「巨乳警察だ! 動くな!」


 ライダースーツに刺付き肩パット、黒いベレー帽に黒いゴーグルをつけた逞しい男たちが踏み込んで来たんだ。


 驚きと混乱で動けなくなった。

 見ると、徹子も同じだったようで。


 徹子は開脚前屈の姿勢で固まっていた。


「巨乳認定証を出せ!」


 え……?


 怖かったけど「更衣室に取りに行って良いですか?」って言ったら


「許可する。奈良隊員、行ってやれ!」


「ハイ! 塩田隊長!」


 男の人が付いてきてくれて。

 立ち合いの元、ロッカーから財布を出して。

 私は自分の巨乳認定証を出した。


 ヨガルームに戻ってくると、徹子はどういう風に持ってたのか分からないんだけど、携帯してたらしく。

 その場で自分の巨乳認定証を見せていた。


「……ヨシ。顔写真もブラのサイズも、生年月日、年齢、名前も全て一致。そして御璽も押してある。間違いない! 本物! 失礼した!」


 どうも徹子はクリアしたみたい。

 まあ、私だってクリアできるハズなんだけど。……本物なんだし。


 恐る恐る、私は巨乳認定証を差し出した。


 すると


「うむ。問題は無いな。……失礼した」


 ……ホッ。

 何にも疚しいことないのに、こういう風にチェックを受けるとドキドキするよね。


 そうして、巨乳認定証を返して貰っていたら


「塩田隊長!」


 鋭い声が飛んできて


「何だ叶親隊員!?」


 弾かれたように、巨乳警察の隊長さんが振り向いた。


「この女、パッドです! しかも、携帯していた巨乳認定証はあの国で作られた偽物です!」


「何だと!? こいつだったのか!」


 とても厳しい声だった。

 悪は絶対に許さないという、冷徹な響きがあった。


 そして彼らに糾弾されていたのは……あの、妙齢のお姉さんだった!


「……見逃して……後が無いのよ」


 お姉さんは正座しながら、そして泣きながら、そう呟く。


 だけど


「ダメだ! 巨乳に苦行を強いる巨乳判定の正当性を保持するため、不正は絶対に許されない!」


 隊長さんは聞き入れなかった。

 そんな隊長さんに


「1回目は厳重注意! 2回目は罰金50万円! そして……3回目は財産没収の上国外追放!」


 お姉さんは取り乱したのか、叫ぶようにそう言う。


「何で巨乳だけ優遇されるの!? 中学2年でDカップになったってことくらいで!? 私だって高2でDカップになったのに!」


「それが決まりと言うものだ! 納得できないならこの国にいる資格は無い!」


 巨乳警察はそんな言葉には一切動じなかった。

 鉄の男たち……


 隊長さんは、連れていけ、と他の隊員に命じた。

 頷き、一切の私情を交えずお姉さんを引っ張っていく。


 最初、泣いていたお姉さんだったけど


 引っ張られて、ドアを抜ける瞬間だった

 キッ、と私たちをすごい目で睨んで


「畜生巨乳ども! お前らだけ色々無料! 何人子供を産んでも無料! 育児費用無料! 学費も補助がある! ふざけんな!」


 血を吐くような叫び。


「この現代の天竜〇どもめ!」


 そう、吐き捨てて。

 直後に巨乳警察に鎮静剤を注射され、気絶して。


 そのまま連行されていった。


 ……私たちの受けられる特典だけ見て、贔屓されているって怒ってる人、たまにいるよね。

 悔しいよ……


 巨乳って、とても大変で恐ろしいものなのに……!


 私はなんだか怒りより、悲しさを感じた。

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