第22話 真神くんって……?

「何で飛び級して入学してきたわけ?」


「少し周りより理解力があり過ぎて、中1の勉強が退屈に感じてしまったんですよ。皆さんだって小学校の授業を今さら聞かされるのは嫌でしょ?」


「真神くん、すごく頭が良いんだねぇ」


「そういうことは、別に人間の価値に影響してこないことですし。人間、日々穏やかに、何か他人のために生きていくことが大事だと思います」


 真神くん。


 ニコニコと、彼の席に群がって、質問攻めしてくる女の子たちに丁寧に応えていく。

 見た目可愛いし、言ってること別に自分の頭の良さを鼻に掛けてる感じでも無いし。

 人気が出てるみたい。


 う~ん。


 ホント、なんで編入してきたの?

 程度の低い勉強しかさせてくれない中学の方が、きっとずっと、遊ぶ時間取れるのに。

 なんでわざわざ、勉強の難度が上がって遊びにくくなるであろう高校に?


 女の子が弄り倒して気が済んだのか。

 わさわさと散っていってから、私は彼の席に近づいた。


「真神くん」


「ああ、のぞみ姉……高野さん」


 一瞬、今の状況に相応しくない呼び方をしそうになって、慌てて言い換える。


 ……ちょっとこっちが違和感あるなぁ。


「ホントは何で編入してきたの?」


「……ちょっと兄ちゃん……兄と、ガチ対決してみたくなっただけ」


 ちょっと、遠い目をしながら真神くん。


「ガチ対決……?」


「定期テストってさ、結果貼り出されるじゃん。中学からは」


 ニコォ、と笑う。


 ……兄弟仲悪いの? ひょっとして


「……お兄さんに勝ちたいってわけ?」


「いや、ちょっと違うかな」


 くる、と椅子を座り直し、顎に手を当てる。


 感覚として、僕は兄よりは勉強はできるな、って。

 その予感はあったから、別に勝ちたいってわけじゃない。


 単に実際やってみたらどうなるか? ってのが見たくて。


 ……困惑する。

 それでどうするつもり?


「……お兄さんを落ち込ませたいの?」


「……なんで今の話が落ち込むって話になるの?」


 ここで。

 彼は本当に意味不明のことを言われた、って顔をする。


「僕が勝ったら、絶対に兄は喜ぶと思うけど? 何で落ち込むの?」


 ……ひょっとしてこの子、共感力無いのかな?

 でもまあ、絶対に悪い子ではないと思うんだけど……


 男の人って他の男を競争相手としてしか見て無いんでしょ?

 じゃあ、上の存在である佐上くんが、弟という下の存在に勉強で負けたら、ショック受けるに決まってると思うんだけど。


 ……いやでも、兄弟は違うのかなぁ……?

 どうなんだろ……?


 そんな風に考えていたら


「のぞみ」


 徹子がやってきて


「どうも初めまして。のぞみの友人の佛野徹子と言います。ヨロシク」


 左手の結婚指輪を示しながら。

 ……徹子、既に結婚してるから絶対に自分を口説こうとするんじゃないぞと、そういう意思表示で。

 男の子と初めて会話するときは絶対にコレをするのよね。


 ……この子、中1なんだけど。

 実質。


「どうもです。僕は真神真虎です。……ここだけの話だけど、高野さんとは格ゲーのライバルです」


 笑顔で返す。

 それを見て


「あ、のぞみとはプライベートでも親しいんだ?」


 ちょっと面識あるだけだと思ってた、と。

 すると


「ええ。まあ、まだ数えるほどですけど、一番戦い甲斐がある相手だと思ってます」


 ……よそいきだなぁ。感じ良いよ。

 感心してしまう。


「そうなんだ……」


 徹子はそう、納得したように頷いてから

 私の肩に手を置いて


「この子さ、巨乳認定証もちの独身女子なのよね。後が無いんだ」


 だからちょっと、付き合い悪くなるかもしれないけど、怒らないであげてよ?

 マジ、あと1年以内に結婚できないとこの子地獄なのよ。

 焦ってるの。協力できることがあったら協力してあげてね。


 ……例えば、この子のことを良いなぁ、って言ってるまともそうな男の子を見つけた、って。

 そんなカンジで。


 徹子……!


 徹子の心遣いに私は感激する。


「ああ、高野さんまだ相手決まってないんですね。分かりました」


 卒業までに結婚失敗したら国外追放か強制結婚ですもんね。

 覚えておきます。


 彼はそう言って、微笑んで見せた。

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