第21話 上級国民がやってきた

 その夜、私に謝罪のメールが来た。

 山田くんからだった。

『今日は申し訳ありませんでした。混乱してしまって、思わず逃げてしまいました』とあった。


 私は「ゴメン無理。私の目的知ってるよね? 私、彼氏が欲しいんじゃないんだ。結婚相手が欲しいんだよ。だから、土壇場で私を忘れて逃げてしまう人は選べない」……と打った。


 続けて「今日のことは絶対に口外しないから心配しないで。ただ、次に誰か好きになったら、その人のために踏みとどまれる男の子にならないと、山田くん、ダメだよ」……と打った。


 そしたら、さらに返信があったけど、今度は読まずに消した。

 そしてアドレスを消去し、電話番号を電話帳から消した後、履歴から該当番号をブロック設定にした。


 ……講習会で「減点方式はやめなさい。加点方式で見るのです」って指導されたけど。

 今回のこのことを「減点方式で見るな」って非難されたら


 これだけは、絶対に違うと言い返したい。

 土壇場で私を捨てて逃げる人との結婚を拒否して、一体何が悪いのよ?




「のぞみ、デートどうだった?」


 次の日の朝の時間。

 ホームルーム前のひととき。


 前の席の徹子が、振り返って戦果を訊いてきたので


「格ゲーマーなのをバラしたら、ダメになった」


 そう返す。


 すると


「まあ、特殊な趣味だものね。100円玉を賭けて勝利を奪い合うバトル、なんて」


 しょうがないか、みたいな調子で徹子。

 で、私に向かって笑いかけながら


「まあ、次があるよ絶対。外見レベルは絶対に前より上がってるわけだし」


 そう言って励ましてくれる。

 ……嬉しかった。


 ありがとう。


 前よりのぞみは柔軟になったし、今は心配はしてないよ。

 意外に秋になるまでに結婚決まるかもよ、なんて。


 さらに励ましてくれた。




 マネージャーは続けているけど。

 変化があった。


 山田くんが部活を辞めたのだ。

 佐上くんが何か悩んでいる風だった。

 自分の指導が不味かったのか、って考えているのかな。


 ……本当の理由はおそらく私なんだけど。

 それを自覚すると、あのときのことが思い出されて。


 辛くなるので、仕事に精を出した。




 さらに数日が経った。


 その日、朝から何か教室がざわざわしていた。

 なので私は


「……どうしたの?」


 クラスメイトに確認した。そしたら


「ああっ、のぞみ! ビッグニュースよ! 編入生がやってくるのよ!」


 編入生?


 この学校、結構進学校で、卒業生に京大合格者が混じる高校だから、編入試験超難しいって聞いたけど?


 つまり天才が来るってこと?


「しかも飛び級生だって!」


 ……飛び級……前の社会ではこの国ではやってなかったそうだね?

 今は稀にある存在だけど。


 う~ん、なんかテンコ盛りな編入生だなぁ。


 考えながら自分の席に着く。


「……徹子、どう思う?」


「こういうの、大体すごく個性的な人物がやってくるのが王道だけどね」


 そんな、漫画みたいな……


 そんなどうでもいい話をふたりでひそひそしていたら、


 ガララ、と教室の戸が開き。

 担任の先生の後に、編入生がついてくる。


 それは……


「どうも。去年まで京都第一小学校で、この春から京都第一中学校。そしてこのクラスにやって来ました真神です。真神真虎って言います」


 ニコニコと。

 見た目だけは天使の中1男子、みたいな顔で微笑む真神くん。


 ……本当はちょっと食えないところがある、天使とは言い難い男の子なんだけどね。


 彼は挨拶を済ませるとペコリ、と礼をした。


 彼の本性を知らない女子たちが「カワイイイイ!」って叫んでた。


 ……っていうか!

 男子の制服の学ランの外に見える彼の顔!


 そこに気づいて、私は愕然とした。


 あのときボッコボコだったのに、今は完全に元通りだ!


 上級国民って、本当に特別な医療って奴があるの!?

 ……上級国民、凄すぎる!

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