第17話 真っ暗

「驚きました。高野センパイ、ゲーム強いんですね」


 幸い、山田くんはドン引きしてなかったようで。

 本当に嬉しかった。


「一応、全国大会に出たこともあるよ」


 安心したので、思わず笑みが零れる。

 

「何が楽しみなんですか?」


 そう訊いてくれたので


「技比べ」


 即答。

 練習して対人で勝てるようになるのが、本当に至福。

 やったことないけど、ベクトル的には将棋や囲碁と感覚似てるんじゃないかと思うんだけど。


「……できれば、なんだけど。山田くんにもあのゲームで何か持ちキャラあったら嬉しいかも」


 ちょっと卑怯かと思ったけど、俯いて、小さい声で彼にお願いをした。

 完全に私のエゴなんだけど、愛する人が私と同じゲームで自分の持ちキャラを持ってるのは嬉しい。


 持ちキャライコール得意武器。いや、格闘技と言って良いかもしれない。

 それがその人の個性だ。それが弱くても強くても良い。人の数だけ持ちキャラがあるのが楽しいのよ。


「一応さ、あのゲーム……セガサ〇ーンでソフト出てるんだよね……。山田くんがやってくれたら、一緒に部屋で遊ぶことも出来ちゃうかも?」


 ……言いながら、なんだか身体を餌にしてるみたいだなと内心思ったけど。

 上手く行けば、彼と仲良くなる切っ掛けが作ることができるのかもしれないわけで。


 ……こういうやり口、講習でどう言ってたっけ……?


 と……こんなことを、ゲームセンターを出たちょっと先の店先でしてたんだよね。

 無論、出入りの人の邪魔にならない位置にちょっと避けて。


 そしたら


「おい」


 ……ドスの効いた声が、背中からしたんだ。




 振り返ると、目を怒りで吊り上げた男が立っていて。

 その後ろに、見るからにガラが悪そうな男たちが数人。

 後ろの人たち全員ニヤニヤしてる。


 ……え? 私、何かした?


 ちょっと、意味が分からなくて


「何か御用ですか?」


 そう、訊いた。

 そしたら


「一方的にハメといて、勝ち逃げたぁふざけんなよこのガキ。……犯すぞ?」


 ……ちょ、ちょっと待って。

 さすがにわけわかんない。


 まさか……さっきの?


 だから私は


「えっと……もしかしてさっき対戦した人ですか?」


「そうだ」


 えっと……


「対戦台に座るってことは、挑戦者を受け付けているってことですよね?」


「だからといってハメ技が良いわけ無いだろうが!」


 向こう、激高。

 怒鳴られた。


 背筋が寒くなる。


 ……どうしよう……?


 私は山田くんの意見を求めようとした。

 そして、振り向いたら……


 ……彼の姿が無かった。

 目の前が、真っ暗になった。

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