第15話 ごはん代無料

「昔はもっと展示してる生き物多かったらしいですけどね」


 海の生物の展示を巡りながら、山田くん。

 そうだよね。


 この国の領海内に限られると、ホント限定されるよ。


 オオサンショウウオは居るんだけど……

 ペンギンは居ないんだよね。

 私は図鑑でしか見たことが無い。


 実物は今でも生きてるのかなぁ……?


 まあ、無かったら楽しくないかと言われると違うんだけど。


 魚の群れが泳いでいるのを2人で見るのも楽しいし。

 それに、イルカショーはちゃんとある。


 カッパを着て、ショーを2人で見て、ひとしきり騒ぎ。

 気が付いたらお昼1時になっていた。




「ご飯、ここで良いですか?」


 まぁ、学生だし。

 こんなところでいいのでは。


 水族館近くのファミレスだ。


 しかも、チェーン店。


 中はそこそこ混んでいた。


「おふたり様ですか?」


 応対に来た店員さんが私たちにそう訊いてきたので。


「はい。そうです」


 そう、普通に答える。


 そして席に案内されて。


 ふたりして、さっさとオーダーを決めた。


 ふたりとも、海老ピラフを注文。


 待ってる間、会話をする。


「山田くんの得意科目は? 私は数学と化学だけど」


 そう言うと


「女性で理系科目得意って珍しくないですか? 僕は国史と世界史が好きです」


 なるほどなー。

 こういうの、大事だからね。


 聞いておかないと。


「国史はどの辺が好きなの?」


「やっぱ明治あたりからですかねぇ。封建主義から、民主主義に移っていくあたり。燃えます」


 言いながら、ちょっと興奮してる。

 ……ああ、こういうことに情熱ある人なんだ……。


 これはこれで素敵だよね。


「民主主義ね……その時代の人が、今の時代見たらどう思うんだろうね?」


 ちょっと、笑い交じりに言ってみた。


「……まあ、実質今の時代は封建主義に近いかもしれませんしね。選挙無くて、元老院が議員決めて、総理大臣まで選出して国を動かしてますから」


 山田くんはにこやかにそう返してきた。


「普通選挙を復活させようって言ってる人、多いけどさ、なかなか実現しないよね。賛成者がいないせいで」


「……特に僕らの親世代に多いですよね。ちょっと理由が分からないんですけど」


 曰く、今の方があのときよりマシだから。

 普通選挙を復活させると今が壊れるかもしれない。


 そんなことを言ってる人が本当に多い。


 そんなに自分が信じられないのかな?

 確かに元老院の政治、巨乳に対する厳しさ以外は特に問題を感じないけど。


 自由だし。


 民主主義を主張しても逮捕されないし。


 でもさ。

 今の元老院の人が老衰で居なくなったら、次はどうするんだ問題あるし。

 次の人もまともである保証なんて無いじゃんか。


 だから、普通選挙はあった方が良いって思うんだけど。


 なんて。

 雑談に興じていたら、ワゴンで注文した料理が来て……


 チャーハンだった。


 えっと……


 私たち、海老ピラフを注文したよね?


 そう思ったので


「すみませ……」


 言いかけたら


「あ、ごめんなさい。注文内容が間違ってます」


 その前に、山田くんが遮るように店員さんに声を掛けた。

 そして、穏やかに続ける。


「取り替えていただけますか? お手数をお掛けしますが」


 すると店員さん


「申し訳ございません! ただちに作り直します!」


 大慌てで、平謝りする。

 そして


 私たち2人に出したチャーハンを回収しようとしたんだけど。


「あ、僕の分はいいです。この人の分だけで」


 そう言って、私の分だけ海老ピラフに換えるようにと言ってくれる。

 理由は、2人分作り直すと時間かかるからいい。その代わり、私の分は大至急でお願いします、って。


 ……アサーティブ……


 これはすごいと思った。

 感情を爆発させないで、自分の主張したい権利を相手が納得する形で伝えられた。


 特にね、立場の弱い人の前で、これができる人は本物なんだよ。

 そういう風に講習会で習った。


「はい、勿論ですお客様!」


 そう言って、私の分を回収しようとするんだけど。

 そこで私は


「あ、私も不要です。チャーハンでダメな理由が今の私に無いから気にしないで」


 それを断る。


 まあ、違うものが来たのは引っかかるけど、なんとなく決めたものだし。

 店員さんが間違いに気づいてくれたなら、それでいいや。




 でまあ、かなり良い感じでご飯が終わった。

 それで、会計なんだけど……


 私が財布を出そうとする。


 すると


「あ、支払いは僕が持ちます」


 ……あ、言っちゃう人か……


 こういうの、色々なパターンがあるからなぁ。


 金銭面でしか男性を主張できないとか。

 精神的に女を飼い殺したいとか。

 単に、昔からの慣習と信じて、愚直にやってるだけとか。

 高校生の段階ではそこまで深く考える問題では無いかもだけど。


 まあ、色々パターンがあるらしい。


 だけどね。


「ああ、大丈夫。支払いはお金掛からないし。自分の分は自分でなんとかするから」


 言って……私は財布から「巨乳認定証」を取り出した。

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