第14話 初デート開始

 週末。待ち合わせは10時半。

 私は30分前に到着し、待っていた。

 

 待ち合わせは、駅前。

 駅前広場の時計の前で、じっと待つ。


 ……昨日、講習会で渡された、いにしえの少女漫画を3億回くらい読み返す勢いで読んだんだよね。

 なんでも、昔の社会で「恋愛について大事なことが全て書かれている」という評価がついたという名作。


 実際、めっちゃくちゃ面白くて、暗記するほど読んだんだけど。

 そこにはテクニックだとかそういうもの以前に「相手に対して誠実に向き合うこと」が一番大事だって書かれていた。


 もっともだなぁ……と全て分かった気になって。

 今日。


 ……先日、徹子に選んでもらった一張羅。

 どうだろうか?


 髪の毛もセミロングにしてきたし。

 お姉さんに見えるかな?


 そして15分くらい過ぎたとき。


「あ! すみません高野センパイ!」


 山田くんがやってきた。

 服装は……


 うん……変な格好じゃない。

 少なくとも、考えてるのは分かる。

 ここで明らかに普段着なんて常識のない格好で来てたら、そこは考えないといけないところだった。


 ちょっと走って来たのか、汗を掻いていて。


「先に来てたんですね。すみませんでした」


 しきりに謝っている。


 私は


「いいよ。私が勝手に念のために30分前に来ただけだし」


 私、悲観主義者らしくて、何が起きてもいいように、わりとよく30分前行動をするんだよね。

 そう、付け加えた。




 水族館は駅から15分ほど歩いて行った先。

 名前は「京都水族館」


 前の社会では、水族館はそれはそれは面白い場所だったらしい。

 この国以外の海から、珍しい生き物を捕まえてきて、お客に見せていたとか。


 できればそういうの、見たかったなと思うけど。

 今は物理的にそれが無理だからね。

 この国の領海内の海からしか、展示物を調達できないんだよ。


 歩きながら、会話する。


「山田くんは普段の休みは何をしているの?」


 すると


「テレビを見てるか、筋トレしてるか、ゲームをしてるか、ですね」


 ゲームかぁ……


「ハードは?」


「セガサ〇ーン」


 おお……


「プレイス〇ーションじゃないんだ?」


「さすがにジャンク屋で発掘品を買いに行くほどの金欠人間じゃないですから」


 ハハ、と笑う彼。

 まぁ、現行工場で生産されてるハードって


 セガサ〇ーン、X-B●X、3■Sだけだからなぁ……。

 他は全部ジャンク屋で中古品を漁るしかない。


 プ〇ステって、ゲームに入れ込まない人でも楽しめる作品が多くて。

 今でも好きな人が結構いて。


 ジャンク屋で二束三文で売ってる中古品を買ってきて、裏ルートで修理して遊ぶ人がそれなりに居るらしい。

 実際、手間は掛かるけど何故かそっちの方が安く済むとか。

 ……まあ、故障しても保証がつかないんだけどね。正規品じゃ無いからさ。


 ……何でなんだろうか? 理屈に合わないよね。


 一説には「昔のゲームファンが、プ〇ステを貶めたくて無理矢理そうしてる」って話を聞いたことがある。

 本当……?


 すると


「あ、水族館ですよセンパイ」


 山田くんが指差す。

 おお……


 コンクリートで作られた建物……

 京都水族館だ……。


 どうやら、雑談している間に着いてしまったらしい。

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