第10話 ラブレター

 毎日放課後マネージャーをしているうちに、仕事にもだいぶ慣れてきて。

 掃除も洗濯も調子よく出来るようになってきた。


「洗濯機のセットはこれでOK、っと……」


 これをやってる間に掃除をする。

 こういうマルチタスクが大事なんだよね。

 先輩もそうしてたし。


 そして部室に入って掃除を開始しようとしたら。


「あ、山田くん」


「ああ、高野センパイ。動画をパソコンに移してます」


 部室のパソコンの前に男の子。


 今、組手の動画をフォルダに移してくれてるみたい。

 それ、マネージャーの仕事なんだけど……


「それ、私の仕事……」


「いえいえ、このくらいの仕事、俺らの練習の合間でも出来ることですし」


 笑顔でやってくれている。

 この子、山田くん。下の名前はまだ覚えて無いんだけど……


 丸坊主の純情そうな子。

 学年は1年で、1個下だね。

 よく合間合間に、私の仕事を手伝ってくれてる。

 それは助かるし、嬉しいんだけど……


(いや、あなた、本業空手でしょ?)


 そう思うので、正直困ってる。

 女の子には親切にしろって、ご両親に教わってるのかもしれないけど。

 場合によりけりだよ。


「ああ、掃除しながら移動させるから、練習に戻って。お願いだから」


「……そうですか……じゃあ、あとはよろしくお願いします」


 そう言って、山田くんは稽古に戻っていった。




「空手部マネージャーの調子はどう?」


「ん、調子いいよ。先輩マネージャーとも仲悪くないし」


 お昼休み。

 お弁当を机をくっつけて、徹子と食べていると。

 調子を訊かれた。


「……佐上くんとの仲は?」


「いやぁ……そっちはまだ、全然……」


 痛いところを突かれたので、苦笑いを浮かべて誤魔化した。

 ……時間無いんだけどねぇ。


「焦るのは禁物だからね?」


 ……それは分かってる。

 大して親しくも無いのに、突っ込んだことを聞くのはNGだよね。

 そんなの、佐上くんの立場に立てばキモイしムカつくことだろうし。


「当たり前だよ。見損なわないで」


 そこだけはハッキリ言っておいた。




 そしてある日。

 私が洗濯の終わった汗拭きタオルを物干しロープに干していると。

 先輩マネージャーが自分の分が終わったので、別の仕事をしに部室の方に消えた。


 その場に、私一人だけになってしまった。


 まあ、だからどうだってことは無いんだけど。

 学校だし。


 洗濯物を干す場所だから、風通しは良いんだ。


 そこで涼しい風を感じながら、作業を進めていると。


「高野センパイ」


 名前を呼ばれた。

 振り返る。


「……山田くん?」


 そこに居たのは山田くんで。

 手には何かを持っている。


 ……封筒?

 何だろう……?


「……これを読んで欲しいんです」


 言って、突き出してきた。

 彼の顔はもう、緊張で強張ってて、真っ赤だった。


 そこで、さすがの私でも気づいた。

 ……ひょっとしてこれはラブレターじゃないの?


 昔の昔、だいぶ昔の少女漫画でしか見てないよ。

 最近じゃメールで済ますのが主流らしいけど。告白。

 もうちょっと前ならラインとかいうアプリでやってたとも聞いたことある。


「……一応聞くけど、これはラブレター、なのかな?」


 確認した。

 自意識過剰は恥ずかしいから。


「ハイ!」


 やたら元気のいい返事。

 ……山田くんらしいなと思いつつ。


 私は、考えた。


 ……今現在、私には好きな人がいる。

 けれど、それはチャンスがあるとかないとか、そういうのの外の可能性がある。


 そして私には時間が無い。

 高校卒業までに結婚しないと、待っているのは地獄。


 どうしよう……どう答えたらいいんだろう……?


 山田くん……

 多分、この子は悪い人間じゃ無いよね……


 そういう風に感じるし。


 でもさ……そういうので選んでいいのかな?

 分かんない……


 講習会ではどう言ってたかな……?


 ダメだ……分かんない……!


 だから


「……ちょっと考えさせて。明日のこの時間、返事するから」


 山田くんの手紙を受け取って。

 私はそういうお願いをした。


 山田くんはそんな私の言葉を聞いて、ちょっとだけ残念そうな表情を浮かべたんだけど。

 彼は


「分かりました。明日ですね」


 そう、了承してくれた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る