第9話 ライバルとの出会い

 どういうつもりだろう、と思っていたら。


 ……向こうはキャラを変えてきた。


 向こうが今度選んできたのは……半魚人。


 半魚人かぁ……


 飛び込み攻撃で一気にカタをつけてくるキャラだよね?

 その「飛び込み」が問題なのになぁ。


 ……ま、やってみたらいいよ。

 多分私が勝つし。


 そう、思っていたら。


 ウロウロしながら大キック。

 ダッシュしてパンチ。


 ……飛び込み攻撃をあまりしてこない。


 同じパターンじゃないの?


 で。


 この動きが意外に厄介だというか。

 見事に私、攪乱されている。


 どっちで来るかで迷うんだよね。

 パターンが一定してないっていうか。


 ……これは……この人の一軍なのか……!


 で、飛び込みが来るとそこを起点に連続ヒットのチェーンコンボ。

 気持ちいいくらい入ってしまう。


 最終的には勝てたけど。

 体力ゲージは3分の1くらいまで減らされた。


 強かった……!


 すると


 向こうの席で、対戦相手が立つ気配というか、物音がした。

 思わず、身構えてしまう。


 ……ゲームセンター名物「リアルファイター」

 近距離パワー型のスタ〇ドだ。

 能力は「対戦相手を直接暴力でボコにして、負けた悔しさを晴らす」

 ゲームセンターには、たまにそういうスタ〇ド使いが出てくる。


 類似型に……


「ダイパン」(筐体を叩いて威嚇し、対戦相手のリズムを崩す能力者)


「チッチ」(自分のプレイしたいゲームを他の人が遊んでいるので、早く負けてくれないかなと期待し、なかなか負けないので舌打ちして威圧してくる能力者)


 こういうのが居る。


 ……やだなぁ……負けるのに耐えられないと、テクの上昇は望めないのに。

 それぐらい我慢できないの?


 ……正直、怖い。

 どうしよう……?


 逃げようか、とちょっと思ったんだけど。

 まだこのゲームは動いてる。


 ……つまり100円が残ってるし。

 せこいことを考えてしまう。


 で、離脱のタイミングを計りかねていたら。


 来た。


 ああ……


 恐怖と緊張でドキドキして……


「お姉ちゃん、強いね」


 ……いたら。

 私の前に来たのは男の子だった。


 多分中学生。

 ……小学生かもしれない。


 だからまあ、小6か中1かなぁ?


 ……制服着てれば分かるんだけど。

 この子、私服。

 白いシャツと黒い吊りズボン。


「えっと……まあ1軍キャラ使ってるし」


「僕もそうだよ。さっきのが1軍」


 ニコニコしてる。


 典型的な可愛い男の子だ。

 肌も綺麗だし、目が印象強い感じの可愛い子。


「久々に負けたよ。家で家族相手に戦うときは、母さん以外負けないんだけど」


 ……そのお母さん、レベル高いんだね。

 キミのレベルで常勝してるなら、相当だと思う。


「お姉ちゃん、ここによく遊びに来るの?」


 そう、訊いてきた。

 うん、そうなんだけど……


 一瞬、ストーカーという単語が頭に浮かぶ。

 そういう情報って、他人に渡すのどうなんだ……?


 ……ま、いいか。

 ギリ小学校に通ってたような子相手なら、そういう情報を渡しても別に、さ……


「うん、そうだよ」


 正直に答える。

 すると彼は


「じゃあ、また勝つ自信がついたら勝負を挑むから」


 ニコニコしながら。

 続けて、こう訊いてきた。


「僕は真神真虎まがみまとらって言うんだけど、お姉ちゃんは?」


 名前……

 ま、これもいいか。

 

 こんな子供なんだし。


「私は高野のぞみ」


「のぞみ姉ちゃんね。ヨロシク」


 言って、手を差し出して来たので。

 私は握り返し。


 そうして。

 今日は駅前で嫌なことはあったけど。

 私は大好きな格ゲーで、対戦し甲斐のあるライバルに出会ったのだった。

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