第5話 私の親友の話

 私はそんな感じで、すでに好きな人がいる人へのアタックを決意したんだけど。


 目下、やることは……


①佐上くんの好きな相手というのを確認する。

②どの段階にあるのかを知る。

③知って、取り返しがつかないレベルなら諦める。本当の寝取りはダメ。


 ……これを、可能な限り速やかにやらないといけないわけだけど。

 ③がね、すごく大切なんだよね。


 だって……③をやると、私は親友を失ってしまうから。


 私の親友の佛野徹子は、父子家庭の子。


 理由は……

 彼女のお母さん、彼女が10才のときに不倫がばれて、あの国に追放されてしまったんだよね。

 彼女が5才のときから5年も不倫してて、それがばれた。


 昔の世の中なら不倫した側が慰謝料を支払って、離婚されて終わりだけど。

 今の世の中では不倫は刑事事件だから。

 不倫した側……有責者って言うんだっけ? それが本来のパートナーに許されないと、あの国に追放される。

 間男と一緒に。


 そのときはそれはそれは見苦しいものだったらしく。


 双方、不倫の責任を擦り付け合って、相手が悪いと主張しまくってたそうだ。


 そして彼女のお母さん。

 許されようと、本来の旦那さんだけのみならず。

 当時10才だった徹子にも媚び諂ったそうで。


 自分の母親がこんなゴミだったなんて。

 血が繋がっているから、なお許せない。


 そう思ったらしく。


 最後、手錠を掛けられた母親が、泣きじゃくりながらあの国に追放する護送車に乗せられる姿が目に焼き付いているそうだ。

 そして思ったんだって。自分はああはなるまい、って。


 ……だからまあ、相手に尽くすが普通に出るんだと予想。


 まぁ、そんな彼女だから。


 もう、取り返しのつかないレベルにまで行ってる相手に手を出すなんて真似したら、間違いなく友達の縁を切られる。

 それは嫌だから。絶対に嫌だから。


 そういう場合は、速やかに諦めないといけない。


 ……時間制限と行動制限。

 これはちょっとした冒険だよね。


 そのためにどうすればいいのか?

 それをずっと考えていたんだけど。


 ……一人で考えていても無駄だね。限界がある。


 私はそこで徹子に相談することにした。




「佐上くんを狙うから、彼と仲良くなりたい……?」


 放課後に喫茶店に来てもらって。

 ブレンドコーヒーを飲みながら話をした。


「うん。どうすればいいかな?」


 同じテーブル席に着きながら。

 どういう答えが返ってくるだろうか?


 すると彼女は


「……まあ、基本は挨拶からはじめて徐々に、だよね」


 うん。それくらいはすぐ分かるんだよ。

 挨拶が基本だってことくらい。


 コーヒーを口にして、そういう彼女に私は思わず内心つっこんでしまう。

 口には出さないよ? 当たり前じゃん。

 こっちは訊いてる立場なんだし。


 でも、それでは私は何も新しいことを……


 ……そうだ!


「徹子は旦那さんとどうやって仲良くなったの?」


 実例を聞けばいいじゃない!

 そう思ってその質問をしたら。


 徹子、露骨に顔を顰めた。

 そして言った言葉が


「政府の主催するお見合いパーティに参加した」


 ……え?


 そんなのあったの?

 私知らないんだけど……?


「そんなのあったの?」


 思わず聞いてしまったら


「……あったよ。メールでも聞いたよね? 中学のときに」


 徹子はちょっと呆れ気味でそう返してくる。

 コーヒー、だいぶ飲んでる。

 ストレスを掛けているんだろうか。彼女に。


「政府のパーティの通知が来てるけど、行かない? って。そうしたら、アンタは……」


 私は恋愛がいい!

 それにその日、セイヴァーの大会の予選がある!


「……そう言って、断ったんだんだよ。アンタは。折角誘ったのに」


 思い出したのか、不機嫌になってる。

 ああ……


 私は……


 自分の迂闊さに頭を抱えそうになってると


「いい? 昔はどうか知らないけど、今の時代、私たちの年齢で息子をお見合いパーティに出すような家は、かなりしっかりした家だと思った方が良いのよ」


 息子の自由恋愛より、品質のしっかりした嫁を求めているんだから。

 だから、狙い目なんだと。


 巨乳判定を受けてしまった女子は、時間が限られているから、選ばれるために必死で自分を高めようとしている。

 特にお見合いパーティに出る子はその傾向が強い。

 だからね、ある程度私たちは信頼されてるのよ。そういうしっかりした家には。

 だから教えてあげたのに、アンタは……


 よっぽどムカついたんだろう。徹子はコーヒーのおかわりを取りに行った。


 ああ……

 

 私……遊ぶことばっかりで、なぁんにもしてなかった……!

 徹子はちゃんとしてたのに……!


 私、なんて子供だったんだろう……!

 私は、自分と友達の差を自覚させられて、凹んでしまった。

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