第6話 マネージャーになってみた

「今日から空手部のマネージャーになる、高野のぞみといいます! よろしくお願いします!」


 そう言って、私はコメツキバッタのように何度も深々と礼をした。

 ……結局これしか思いつかなかったァァァァァッ!


 佐上くんの傍に居て、関係を深める方法。

 これしか思いつかなかったよ!


 ……でもこんなの、多分良い方法じゃないよねぇ……!


「こ、こちらこそよろしくお願いします」


「まあ、無理しないで」


 他の部員の人が私に挨拶してくれる。

 ……うう、ちょっと後ろめたい。


 私は別に、空手が好きでしょうがなくて、自分の代わりに空手道を究めて欲しいからマネージャーをするわけじゃないもんなぁ。

 男の子が欲しいからマネージャーするんだし。


 ……なんて不純なんだろう。


 そう思ったから。


「どんな仕事でもやります! どしどし言いつけて下さい!」


 そう言い放った。

 自分を追い込む意味でも。




 大量の汗拭きタオルを洗濯する。

 ……最初は道着を洗濯するのかと思ってたんだけど。

 そっちは部員が家に持って帰って洗濯してるそうで。


 部室の外に設置されてる洗濯機に、タオルをどっさり投入する。

 ……ちょっと息を止めながら。


 いやさ、部員の人たちを汚いとか、臭いとか思ってるわけじゃ無いんだよ?

 でもさ、さすがに汗を拭きまくったタオル、しかもちょっと熟成してるやつ……これは臭いを嗅ぐ勇気無いのよ。


 無論バレたら絶対感じ悪いから、こっそりやってる。息止め。


 この部活、女子マネージャーは私の他に1人しかいなくて。

 手が増えて嬉しいって言われた。


 名前はまだハッキリ憶えて無いんだけど、先輩。

 夏休みが過ぎたらマネージャーも引退するらしい。

 そうなったらワンオペか……


 しんどくなるけど、その分佐上くんの覚えもめでたくなるかな?


 回るとき暴れないように、洗濯物の洗濯機内の位置取り調整をして。

 洗剤も投入し……


 そのとき


 部員の1人がタオル投入カゴの前にやってきて。

 どうしようかマゴついていた。


 ……ああ、空になったのに、また汚いタオルを入れるのはいいのか?

 そういう気持ちなのかな?


 まぁ、掃除しているときに、掃除したての床に土足で上がるような感覚。

 分からなくもないなぁ。


 見た感じ、1年生っぽいし。

 私が2年。躊躇するよね。そりゃ。


「いいよ。貸して」


 私は手を差し出して。

 すると


「ありがとうございます!」


 やたら元気のいい声で、私にタオルを渡してくれた。




 タオル洗濯、部室の掃除、組手の撮影。

 撮影した映像データのパソコンへの転送。

 あと、水汲み。


 ……結構大変だ。

 特に掃除が大変。

 これを適当にやったら確実に私の印象悪くなるだろうし。

 かなり緊張した。


 練習がだいぶ済んで、家に帰れる時間になったとき。

 すっかり日が傾いていた。


「マネージャーはそろそろ帰っていいよ」


 佐上くんが私たちにそう言ってくれる。

 嬉しかった。


 マネージャーが少し早く帰らせて貰えるのは、完全に日が落ちたら、女の子は危ないからだ。

 その心遣いに感謝をし。


「明日もよろしくお願いします!」


 そう言って、また深々と礼をする。




 ……どれだけ相手に尽くせるかを考えろ。

 それが親友の言葉だから。

 それを肝に銘じて頑張るしか無いよね。


 今日はそれ、できてたかなぁ……?


 今日の自分を思い返しながら、家路についていたら。

 駅前を通りかかった。


 京都駅。


 この駅を使ってる生徒もいるけど、私は徒歩だから。

 縁がない。

 ビルの駅。

 今も昔もあまり姿が変わってないらしいね。


 そしたら駅前で


「巨乳認定証は差別だ! 胸の大きさで優遇される制度は間違っている! 我々に普通選挙を! 歪んだ政策を正そう!」


 拡声器使ってアジってる奴がいる。

 けど、誰も聞いてない。

 署名を求めてるけど、ほぼ無視されている。


 ……聴衆にとっては聞く価値が無い議題ってことなのか。


 でもさ……

 許せなかった。


 何が差別だ。

 私たち巨乳判定を受けた女の子たちの気持ちも知らないで!

 たった4年の時間で、人生を共にする相手を見つけなきゃいけない怖さが分かるの? あなたに!?


 ……見ればあの人、男の人じゃない!

 つまり外野じゃん! 黙れ!


 ……私は思い出してしまった。

 中学時代に、政府主催の説明会「巨乳の集い」に出たときのことを。

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