5.配信中=礼嬢オリィはリスナーの温かさに触れる。


「―――――と、そんな風に私は決意をし、紆余曲折を経て今に至るわけですが……って、あれ?リィメンバーの皆様?」


 ひとまず決意までの過去話を終え、次は初配信に至るまでの経緯を話し始めようとした矢先、コメント欄の様子がおかしい事に気付き、思わずリスナーに向けて問いかける。


≪まさかオリィ嬢がそんな苦労をしてたなんて……≫

≪くっ……スパチャできないのが恨めしい……収益化はよ≫

≪応援するから……!絶対についていくから……!だから死なないで!!≫


 普段はあまり動かないコメント欄が高速で動き出し、その全てが心配、または応援するような内容で、中にはひたすらに号泣する人や収益化されないのなら直接支援したいという人まで現れたのだから大変。


 私はお嬢様のキャラ作りさえ忘れるほどの慌てて、リスナー達に声を掛ける。


「お、落ち着いてく、ください。し、心配しなくても、私はここにいて、生きていますから、ね?」


 リスナーに安心してほしいと呼びかけるも、コメント欄の勢いは止まらず、どうしようかと困り果て、あたふたする事しかできない。


≪でも、オリィ嬢!このまま収益化がないと生活ができなくなるんですよね!?≫

≪な、ならどうにかしないと!≫

≪お願い!もうオリィ嬢の配信が見れなくなるなんて嫌だ!≫

≪これから先も元気に配信してください!お願いします!!≫


「皆様…………」


 心底、心配してくれているリスナー達の反応を前にどこか嬉しくなると同時にここまで想ってくれている人達に嘘は吐けないと、深呼吸をしてからそれに答える。


「……ここまで想ってくれる皆様に嘘は吐けませんわね。正直、これからの生活がどうなるか私にも分からない以上、配信を続けていけるかどうかの保証はできかねます。けれど、こうして見てくれるリィメンバーの期待には応えられるように頑張りますわ」


≪オリィ嬢……≫

≪……無理はしないでください。俺達は元気なオリィ嬢が見れればそれでいいですから≫

≪本当に良い子やぁ……みんな、分かってるな?≫


 コメント欄の速度は相変わらずだけれど、私の言葉をきちんと受け止めてくれたリィメンバーのみんなには本当に感謝しかない。


 だから私にできる限り、生きていられる限界まではこの活動を続けていこうと思った。


「――さて、少し話が逸れてしまいましたけれど、続きと参りましょう。それではVtuberになろうと決意した私が実際にどういう風に行動したのかを……あら?もうこんな時間ですの」


 どうやら過去話をしている内に時間があっという間に経っていたらしく、気付けば配信時間が二時間に届くかといったところまできている。


(……私、個人としては時間はあるけど、今日も明日も平日だし、見てくれているみんなを夜遅くまで付き合わせるわけにはいかないよね)


 他のVtuberを見る限り、二時間以上の配信も少なくはないが、時刻は二十三時、明日も仕事がある人にとってここから先の視聴は明日に響くだろう。


「少し長く話し過ぎてしまいましたわね。続きは次の配信にするとしましょうか」


≪そんな……まだいけますよ≫

≪そうですよ、オリィ嬢。終わらないで≫

≪おい、お前ら。さっき無理はしないでっていったのを忘れたのか?≫


 配信の終わりを告げると、コメント欄がそれを惜しむ言葉で埋まり始めるも、一人のリィメンバーがそれを宥め、解散の流れを作り出した。


「……それではリィメンバーの皆様。次の配信まで、ごきげんよう」


≪ごきげんよう≫

≪ごきげんよう≫

≪おつ~≫

≪おつオリィ~≫

≪お、その挨拶いいな、おつオリィ~≫


 何故か生まれた妙な挨拶はともかく、コメント欄のみんなと互いに別れの言葉を交わした私はエンディング画面を流して配信を終了した。


「っ――――終わった……」


 PCの電源を落としてベッドに飛び込み、仰向けに寝転んで目元を腕で覆う。


「……なんか余計なことまで喋っちゃった気がするなぁ」


 配信で過去の話をすると決めた時に少しぼかそうと思っていたのに、いざ始めたら口が止まらなくなって、気が付けば洗いざらい全部をぶちまけてしまっていた。


(流石に個人の詳細までは言っていないけど、それ以外は全部言っちゃし、特定とか……まあ、そんな心配はいらないか)


 人気の配信者ならともかく、私は収益化すらできていない底辺Vtuber……暖かいリスナーはいても、熱狂的なファンなんていない。だから大丈夫だろうと思考を投げ出し、ゆっくりと目を瞑る。


(後どれくらいこの活動を続けられるのかな…………続けられなくなるのはいやだなぁ…………)


 だんだんと眠りに入り、薄れゆく意識の中でそんな事を思いながらその日は就寝。先の不安を覚えながらも、配信での暖かいコメント欄に満足して眠る事ができた。


 しかし、この時の私は夢にも思わなかった。


 あの配信を終えた後のSNSで話題に挙がり、再生数が見た事のないほど膨れ上がっていた事を。


 なにより私の事を想ってくれているリスナー達の熱量を理解していなかった。






  ☆ ☆ ☆


5.配信中をお読みくださり、ありがとうございます。


これは過去を話した彼女をリィメンバー達が心配し、その反響に戸惑うお話です。


リィメンバー達の温かさに触れた彼女がどう歩んでいくのか、気になる、推せるという方はチャンネル登録……もとい、フォローの方をよろしくお願いします……それでは彼女から一言!


「……正直、私はリィメンバーの皆様の熱意を甘く見ていましたわ。皆様の応援に応えるためにこれからも頑張ります!……ですわ」

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