2.配信準備=彼女は人らしさを取り戻す。


 どれくらい時間が経っただろうか、気が付けば明るかった室内が薄暗くなっており、少なくともすでに日が暮れているであろうことは分かった。


「ん……うぅ……」


 寝ぼけ眼を擦りながら気怠い身体を起こしてふらふら再び洗面所へ向かう。


「ふわぁ……もう七時過ぎなんだ……久しぶりにこんなに寝た気がする」


 向かう途中でチラリと時計に目をやり、十二時間以上も寝ていた事に少し驚きつつ、洗面所で顔を洗う。


「……少しはマシな顔になった、かな?」


 蓄積された疲労や精神的な負荷がすぐに回復するわけじゃないだろうけど、眠ったおかげで気休め程度には楽になった気がする。


――――ぐぎゅるるるる


 精神的に少し落ち着いたせいか、静かな室内に大きなお腹の音が鳴り響いた。


「朝から何も食べてないもんね……あれだけ泣いたし、そりゃお腹も空くか」


 何かなかったかなと思ってキッチンに向かい、冷蔵庫を物色するも、時間がないせいで普段料理なんてする事がないため、中には碌なものが入っていなかった。


「うーん、どうしよう……コンビニまで買いに行こうかな……でも……」


 せっかく時間もあるのだから食材を買ってきて自炊したい気分なのだけど、今の泣き腫らした酷い顔で外に出たくないし、なにより人と会うのが少し怖い。


「……うん、今日のところは買い置きの何かにしておこっと。ひとまずお腹が満たせればいいや」


 買い溜めしていたインスタント食品や冷凍食品の方を漁り、カップラーメンと冷凍の餃子、そして冷凍炒飯を取り出してそれぞれ調理し、テーブルの上に並べていく。


「まあ、調理と言ってもただお湯を入れてレンジで温めただけなんだけど…………って、一人で喋っても仕方ないか……はぁ……」


 自分がところどころおかしくなっている事を自覚しながら大きなため息を一つ吐き、割り箸を割って手を合わせ、黙々と食べ始める。


「…………このまま静かな中で食べても味気ないし、テレビは……そっか、どうせ見ないと思って解約しちゃったんだった」


 仕方がないとスマホで動画でも見ようとして寝室へ向かい、画面を付けたところで上司からの着信履歴が鬼のようにきているのが目に入った。


「うわぁ……怖っ…………」


 無断欠勤したのだから電話が掛かってくるのは当然かもしれないが、それでも数十件立て続けに着信履歴が残っているのは軽いホラーな気がする。


「んー……いいや、やっちゃえ」


 画面と睨めっこすること数秒、私は鬼のような着信を全て見なかった事にしてそっと上司の番号を着信拒否の設定に変えた。


「よし、気を取り直してご飯を食べよっと」


 休んだ事でその分の仕事が降り掛かるであろう同僚へ少しだけ申し訳なく思うけれど、それでも私の行動に後悔はない。


 私が私であるために……壊れそうな自分を守るにはこうするしかなかったのだから。






  ☆ ☆ ☆


2.配信準備を読んでくださり、ありがとうございます。


溜め込んだものを吐き出して眠り目覚めた彼女が人としての生活を取り戻していくお話です。


最早、生きる気力を失いつつある彼女がどう立ち直るのか、気になる、推せるという方はチャンネル登録……もとい、ブックマークの方をよろしくお願いします……それでは彼女から一言!


「……ま、またですか。まあ、でも流石に三度もすれば慣れます……今、思い出してもあの時の鬼電は怖かったですね……じゃなかった……ですわ!……はぁ……まだこの語尾は慣れない……ですわ」

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