第20話 救えない活動
道中も大量のモンスターを切り捨てつつ、もう一箇所の救助要請信号があった地点へと向かう。
:モンスター多くね?
:この迷宮っていっつもこんな感じなのか?
:いや、いくらなんでも多すぎる。
:まじでサポートの人が言ってた魔力暴走の方起きてるんじゃねえの
サポート部:一応言っておくと、魔力暴走と魔力変動は同時に起こることだって普通にあり得ると私達は推測しているよ。
現に今みつるちゃんが戦っているモンスターも魔力変動で強化されているし、数は魔力暴走で通常よりも多い。
強化されてたのか。
強化前も後も本気を出すと弱すぎてあんまり違いがわからないのが難点だ。
そういう調査に私は向いていない。
:待てよ、ということは大量発生の上に全部強化されてる、みたいな地獄になることも……
:いやいやいやいや、無いだろ。無いよな?
サポート部:可能性は無くはない。ただ、魔力暴走に魔力が吸われている以上、全ての個体が魔力変動の影響で強化されるかまではわからない、というところだね。結局魔力の総量なんて誰にもわからないから
:その当たりの研究もやってくれてる、ってこと?
サポート部:研究系の部署と協力しながら、だけどね。本当にみつるちゃんには頭が上がらない。
頭が上がらないのはこちらの方だ。
:そこすぐ右に曲がって三叉路を左斜め前だよ
ほら、今だってこうやって、向こうで視聴者達と会話して情報提供をしながら、こっちでは私に指示を出してくれている。
それぞれ別々の人がやっても良いのに、全員この魔力災害で忙しいのか両方咲さんがやっているみたいだし。
モンスターを斬りながら走り続けてようやく、救助要請の信号の場所に到着した。
「……駄目か」
:うわ……
:間に合わなかったのか
:先の組の救助してたから、とは思いたくないよな
:人助けたことが悪いわけ無いだろ。
到着したそこでは、既に立っている人間はおらず、複数のモンスターが、人間だった肉塊にくちばしを突っ込んだり引きちぎって口に運んだりと捕食を行っていた。
周りのモンスターをすり抜けた私は、その集団に突っ込んで片っ端から切り裂き蹴散らす。
そしてモンスターが囲んでいた者を確認した。
顔面を粉砕され脳をすすられた死体に、腹から胸にかけて食い荒らされ苦悶の表情で絶命した死体。
そして手足をもがれて失血死した死体。
モンスターが人間を捕食するとき、捕食する前にわざわざ丁寧に殺さない場合が多い。
今回はそれで運良く生き残っている人がいないかと思ったが、どうやら駄目だったらしい。
全員間に合わなかったようだ。
:映像見えないんだが?
:流石にまずいから配信止めてるとか?
:音も入ってないな
:shi体映さないようにしてくれてるんだろうな
:そんなひどいのか
どうやら咲さんの方で配信を一時的に止めてくれているらしい。
「これ、どうしますか?」
3つの死体に手を合わせてから、咲さんに対処を聞く。
遺品だけが残っていたなら、以前もしたように布でくるんでマジックバッグに突っ込んでおけばいいのだが、遺体が残っているとなると話は別だ。
マジックバッグには遺体は入らないのである。
かといって3体とも丁寧に迷宮の外にまで運ぶほどの余裕は今の私にはない。
魔力暴走で大量発生しているであろうモンスター共を倒さなければならないからだ。
:ドッグタグだけ回収しておいて、後は余裕があったら考えよう
「わかりました」
もう一度3人に手を合わせて、首元にぶら下がっているドックタグを引きちぎってバッグにしまう。
これは、迷宮内で死亡した探索者を確認するために、すべての探索者が所持することを義務付けられているものだ。
発祥である軍での使い方と基本的には変わらないだろう。
「それじゃあ、後は殲滅すれば良いんですね?」
:うん。みつるちゃんにはいつも世話をかけるね。全部殲滅でお願いするよ
こちらへと集まってくるモンスターどもへ向かいなおる。
ふっとばした部分を埋めるように、大空洞に繋がる横穴からぞくぞくと大量のモンスターが大空洞へとなだれ込んでくる。
魔力暴走が起こっている。
これの何が厄介って、こうやって魔力暴走で大量発生したモンスターどもが互いに敵の存在を報せ合うことで、探索者の方へとどんどん集まってくることだろう。
でも、今はそんなことはどうでもいい。
「別にね、怒ってはないよ」
:お、映像戻った
:誰と話してんの?
:流石に死体だけは映せなかったんだろうな
:映せなかったっていうか配慮の問題だろ。
「私の大事な人が死んだわけでもないし、私のなにかが汚されたわけでもないから」
でも。それはそれとして。
:あれ、もしかして
:これ独り言か?
:モンスターに向かってなにか言ってるってこと?
:何を言ってんだろ?
「私の同胞を殺してくれたんだから、八つ当たりぐらいしても、許されるよね」
サポート部:あ、みつるちゃんキレてるかも
シリンダーに手をかけることすらせず、手元に掴む刀に魔力を流し込む。
魔力が集まり、空間が歪むような圧力と音を放ち始めたところで、それを解放しながら、大きく横薙ぎ。
《風刃》とはまた違った形で魔力の刃が刀身の先端から吹き出し、射線上のモンスターをことごとく切り裂き、消し飛ばす。
:は?
:うおあ
:うわあえぐ
:なんだそれなんだそれ。そんな魔法知らんてか剣士じゃなかったのか
無理やりに魔力を込めたことで振り抜いた刀の刀身がボロボロと崩れていくが、以前も言った通り普段の私が使っている刀は数打ちの大したことのない一本だ。
その献身に感謝こそするが、代わりはまだまだバッグの中に控えている。
先程の一撃がモンスターを吹き飛ばしたと同時に、その一撃によって迷宮の壁を大きくえぐり飛ばし、大穴を開けている。
その大穴から更にモンスターが溢れ出す様は、普通の探索者ならば絶望するものだろうけど、私にとってはむしろご褒美だ。
このやりどころのない感情をぶつける的となってくれるなら、なんだっていい。
:みつるちゃん、無理はしないでくれよ
「この程度、無理でもなんでも無いです」
ボロボロになり短くなった刀を投げてモンスターの額に突き刺し、バッグから更に刀を2本取り出す。
これらも数打ち品の刀ではあるが、先程のように無茶な使い方をするつもりはない。
それに、真面目に戦うならともかく、大量の敵を駆逐するならば、二刀流の方が効率が良い。
私はどちらの手でも刀を振るうことが出来るのだ。
;ガチで刀数打ちだったんだな
:使い捨てじゃん
:二刀流、だと!?
:こんなときだけどワクワクしてる自分がいる
「……参る」
地面を踏み砕き、モンスターの群れへと飛び込む。
鉱石狼の首を跳ね飛ばし、マインクラブの甲殻ごと刀で刺し穿ち、鉱石蜘蛛をまとめて数匹斬り飛ばし、廃坑兎の尻尾を切り飛ばし、続く刀で本体を叩き潰す。
廃坑土人の胴体を裂き、頭部があったはずの場所から刀を突き刺す。
右の刀で切り裂いた次は左の刀を突き刺し、そのまま突き刺した場所から切断するように左の刀を振り回し、今度は右の刀で別の敵を切り裂く。
左右の刀が休む暇が無いように常に敵を切り裂くように。
神に捧げる厳かで清廉な舞とは真逆の血生臭くおどろおどろしい舞を。
ひたすらに、斬って斬って斬って斬って斬ってきってきってきってきってきってキッテキッテキッテキッテキッテ──
ときに飛び壁を走り宙を駆け天井を築かれた足場を蹴りモンスターを踏み台にし。
廃坑迷宮を縦横無尽に駆け巡りながら、魔力暴走や魔力変動とは関係のないモンスターすら全て斬り伏せた。
ようやく私が動きを止めたときには、多分、廃坑迷宮にはほとんど生きているモンスターは存在していなかっただろう。
迷宮に存在した全てのモンスターを斬り伏せるぐらいのつもりで暴れた自信がある。
「……やりすぎた」
:え、なんて?
:がちで全部斬ったんじゃないのか?
:何も゛、見えな゛か゛っ゛だ 速すぎて
:魔力変動とか魔力暴走って怒っても一つの迷宮の更に一つの区画程度だよな?
:でもみつるちゃん凄い速度で走り回りながらモンスター全部斬り伏せてなかった?
サポート部:うん、やりすぎたね!
うう、目の前で人が死んでいたこととか、モンスターがそれを食っていたこととか、その人たちの表情が苦しそうだったこととか、好きに切り裂いていいモンスターがたくさんいたこととか。
そういう全部が合わさっって、ついつい暴走してしまった。
魔力暴走ならぬ美剣暴走、なんちて。
:みつるさんも暴走してたのか
:人が死んでたのに怒ったとか?
:義憤にかられた的な?
:そういうキャラじゃないかと思ってた
しかもその暴走をサポートのみんなだけじゃなくて視聴者たちにも見られてしまった。
「うあああ~~~」
それがどこか気恥ずかしい。
ぐねんぐねんと体をくねらせながら身悶えしてしまう。
:見られたくなかったんやな
:でもかっこよかったで
:冷たいところもあるかと思ってたけど、ちゃんと悲しめるんだな
:なんか安心した。
違うのだ。
本当に、いまのはそんなのじゃなかった。
サポート部:みつるちゃんがいい子なのは同意するけど、多分今のは違うよ。
:ほうほう?
:と言いますと?
:義憤に狩られたんじゃないの?
「違うんです……。最初は弔いの意味も込めて、魔力暴走で出現したモンスターを全部倒そうと思ってたんです。でも斬ってるうちにだんだんそれが楽しくなってきちゃって……」
:ワロタww
:楽しくなっちゃったんだな、モンスター斬るの
:最初の目的忘れたのか!?
:アホの子かな?
:そんなに戦闘が好きなんか
:義憤でモンスター倒してるいい子や! とか言った俺の気持ちを返してくださいよ!
「でも私がそういう人間じゃない、っていうのは、なんとなく配信でわかりません?」
:実際わかる
:わかるというかトップクラスの探索者は大体どっか欠落してる
:意外と普通だなとは思ってた
:今回ので切り裂き魔なんだなってのが良くわかった
:これまでも片鱗はあったけどな
:多分戦闘狂もついてくる
ひどい言われようだけど概ね事実なせいで全く言い返せない。
実際に戦闘狂で切り裂き魔で刀馬鹿なのが私だ。
サポート部:みつるちゃん、楽しそうなところ悪いけど、一応第1層に向かってくれるかい?
もう避難はほとんど終わっているそうだけど、念の為にさ
:そういえばまだ魔力災害終わってないんか
:そもそも数日は続くからな。ここはみつるちゃんがまっさらにしちゃったからパット見わからんけど
「あ、はい。ということで、じゃあ今から第1層に向かいますね。鍾乳洞窟でしたっけ。魔力変動の現場」
サポート部:うん、そうだね。あっちは魔力変動だけで暴走はほとんど無いみたいだ。あったとしても気付けない程度だね
:もう大分避難すんでるらしいけど、場所が場所だからな
:鍾乳洞靴通路が狭いから避難が厳しいところが多いんだよな
:みつるちゃんも急いで向かってやってくれい
「はい、それじゃあ、全速力で向かいますね!」
コメントにそう答えて、私は廃坑迷宮の中を転移用の魔法陣に向けて全力で走り始めた。
もしかしたら、まだ助けを待っている人がいるかもしれない。
それならば、出来る限り頑張って行かなければ。
その思いで、私は足を動かし続けるのだった。
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