第19話 救助活動 その2

「彼女を助ける方法があるかもしれません。だから、手伝ってください」


 私の言葉に、3人は顔を歪める。


「助けるっていったって、ポーションはもう使い果たしちまったし、応急処置じゃこの傷は無理だ……」


 :外科手術の領域だしな

 :応急手当って探索者はみんな出来るの?

 :ポーションだって一本百万とかするからな。応急手当は結構みんな身につけてる。

 :ガチで助からないってなってたからあんな暴れてたのかこの二人

 :いや患者の側で喧嘩しないで?

 :一人応急処置をしようとする剣士の健気さよ


 その中でも一番冷静な、応急処置を行おうと試みていた男性が答える。

 ああ、反応を見ていて予想は出来ていたけど、やっぱりポーションは使い切ってしまっていたのか。

 多分魔法使い無しでの防衛戦で負傷するたびに焦って使ってしまったんだろうけど、最後の一個ぐらいはとっておいてほしかった。


 そんな内心のぼやきはおいておいて、説明をする。


「まず確認させてください。彼女はヒーラーですよね?」

「あ、ああ。確かに彼女は火属性の回復魔法が使える。けど彼女自身が気を失ってるのに、魔法なんて使えるはずがない」


 それが確認できれば十分だ。


 :ヒーラー!?

 :確かに白衣来てるわ

 :血染めになってるから気づかんかったけど

 :白衣って何?

 :迷宮探索者のうち回復魔法が使えるやつには白衣がギルドから与えられるのよ。

  この女性はそれを着てる。


「なら大丈夫です。私も不完全ですけど、光属性の回復魔法が使えます。それで彼女に一時的に意識を戻してもらって、最低限移動できるぐらいまで回復してもらいましょう」


 私の言葉に、わずかに3人の表情に希望が戻った。


 :え、みつるちゃんもヒーラー!?

 :でも今不完全って言ったな

 :かろうじて出来るけど不得意か、時間がかかるとか?

 :そもそも属性ごとの回復魔法の効果なんだっけ


 そのまま応急処置をしようとしていた一人に、彼女の隣に待機してもらって、キューブに魔力を通して回復魔法をかける。

  

 光属性の回復魔法、《光の加護》だ。

 私がもっと適正があれば、《光祝》や《光の泉》といった上位回復魔法を使うことも出来ただろうが、そううまい話はない。


 そしてこの《光の加護》を初めとする光属性の回復魔法の特徴は、魔法を受けたものの意識をはっきりさせるところだ。

 もともとは混乱や焦燥、恐慌、気絶など特殊な精神状態になったときにそれを回復するための効果が強い《光の加護》だが、こういう状況で使えば、傷の回復にはほとんど役立たなくても、女性の意識を回復させることが出来る。

 ついでに精神を安定させる効果の派生か、傷の痛みを緩和してくれる効果もあるので、まさにこの状況に最適な魔法だと言って良い。


 その魔法の光が魔法使いの女性を照らして数秒して、彼女が目を覚ました。


「茉莉! 大丈夫か!」

「冬弥? それにみんなも……」

「茉莉、良かった……!」

「すまねえ、俺が不甲斐ないばっかりに……!」


 魔法使いの女性と他の3人が言葉を交わし始める。


「はいはい、そういうのは今は良いので。そこの剣士さん、彼女の頭をささえて軽く上体を起こしてあげてください。傷が彼女に目視できるぐらいで良いです」


 なんとも感動的な場面が始まりそうだったのでバッサリとカットさせてもらう。

 私が助けなければいけないのは彼女たちだけではないのだ。


 :バッサリ言ったww

 :確かに助けようとしてるのにこんなの初められたらな

 :つかまだ助かってないし

 :そうだよ。はよ魔法使わせろ


「魔法使いさん、自分の傷が見えますか」

「あ、は、はい。私、なんで、これ、生きて」


 その傷を見て恐慌状態に陥りそうになった彼女の手を取り、優しく握る。

 その手のひらには、まだ先ほど使った《光の加護》の放つ光が僅かに残っていて、それが彼女を落ち着かせる。

 

「私が回復魔法を使って、一時的に魔法使いさんを起こしました。でも私の魔法は弱いので、これ以上は治せません。だから後は、魔法使いさんが自分の魔法で、傷を治してください」

「……わかりました」


 :すごい、みつるさんがちゃんと人を落ち着かせてる

 :さっきの光属性の回復魔法の効果もあるだろうな

 :というと?

 :回復魔法は属性ごとに付随する効果が違う。光魔法だと精神、意識の安定がその効果。

 :なるほど、それも使ったのか


 私の言葉に覚悟を決めた女性が、タンクの男性から受け取った杖を持って、魔法を講師する。

 すると、私の魔法ではわずかに傷がふさがりかけたかな、程度だった大きな傷跡が、凄い速度で塞がっていく。

 更に体内に入り込んでいたであろうモンスターの欠片が排除され、内部では血管や内臓も応急処置的にはなるだろうが塞がっているだろう。

 

 これならば、転移魔法陣まで運ぶことが出来る。


「大丈夫そうですね。それじゃあ、今から急いでこの迷宮から脱出してください」


 :みつるちゃんも同行した方が良いよ。多分魔力暴走が起きてるからモンスターが多い


 咲さんからのメッセージを受けた直後、上から私達の背後にモンスターが数体落ちてきた。

 見上げると、上にかかっている木の足場や石の足場に纏わりつくように鉱石蜘蛛の群れがうごめいている。


「ひっ……」

「っくそっ」


 ヒーラーの女性だけでなく、タンク役の男性もうめき声を上げている。

 多分彼らだけでは、ここから魔法陣までも到達出来ない。


「わかりました、私が先導します。絶対にはぐれないでついてきてください。それと魔法使いさんは誰かに背負ってもらってください。遅れたら死にますよ」


 :言葉がいつもより容赦がないし堅いな

 :話す目的が明確なときはちゃんと話せるタイプなんかね

 :はっきり言うな

 :魔法使いさん怯えてるじゃん


「わ、わかりました。先導、お願いします」

「ではついてきてください」


 4人の戦闘に立って大規模採掘場から脇の坑道へと入る。 


 :そこまっすぐ行って二つ目の左曲がり角を左に曲がって、その後すぐに右


 道案内は咲さんがしてくれているので迷うことはない。道中大量のモンスターが道を塞ぐようにして存在しているが、それら全部を斬り飛ばしながら転移用の魔法陣へと突き進む。


「す、凄い……!」

「強すぎんだろ……」


 :何回見てもこの強さに慣れない

 :通路塞ぐほどいたのが速度落とすまもなく殺ってるからなあ

 :むしろこっちが災害だろこれ

 :いやでも助かりそうで良かったよ……


 そのまま4人組を案内して転移用の魔法陣まで連れて行く。

 

「それでは。第5層からは脱出出来ますけど、何が起こるかわからないのですぐに迷宮自体から脱出してくださいね。それと魔法使いさんはちゃんと治療を受けてください」

「あの、あなたはどうするんですか?」


 魔法陣の設置された小部屋の前で別れの言葉を交わす。

 魔法使いの女性は、一人残ろうとしている私を心配してくれているようだ。


 :そりゃ普通に考えれば危険なんだけどなあ

 :この人9層の迷宮で似たようなことやってるんですよ

 :心配するのはわかる

 :それでも無茶はせんでほしいわ


 視聴者のみんなも同じような思いらしい。

 でも残念ながら、私はギルド職員なので。

 普段好き勝手やらせて貰っている分、やるときはやらなければならないのだ。


「私はもう一組、救助要請を出している人たちがいますので、その救助に行きます」

「そんな、危険です! 私達だって、あんなに……」


 恐怖が蘇ったのか言葉に詰まる女性に私は笑いかけて見せる。


「これが私の仕事ですから」


 では、すぐに脱出してくださいね。


 そう言って背を向けようとすると、後ろから呼び止められる。


「あ、あの、お名前は。名前だけでも教えて下さい」


 そう尋ねてくるのはパーティーのリーダー格であろう剣士の男性だ。

 一瞬名前を聞かれたことに虚をつかれたが、見事なタイミングで咲さんから援護が入る。


 :迷宮ギルド職員の塚原美剣です。今後とも迷宮ギルドをお願いします、って言えばいいよ


「迷宮ギルド職員の塚原美剣です。今後とも迷宮ギルドをよろしくお願いします。では!」

  

 :今の絶対サポートの人が考えただろ

 :みつるちゃんなら自分の名前ぐらいしか言うことを思いつかない。

 :さらっと宣伝していくの流石やで 

 :でもこれで実際にギルド職員に助けられてるとなるとギルドの株は上がるわな


 コメントが流れるのを横目に、私はもう一箇所の救助要請信号が発信されている場所へと、全速力で移動を開始するのだった。

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