第12話 装備の話

 

 :じゃあ遠慮なく 武器とか装備どんなのかなって

 :確かにそれは気になる

 :やっぱりお高い武器なんかな?


 質問の内容は私の装備について。

 そう、ちょうど私も気になっていたところだ。


「あ、それは私も気になってたんですよね」


 :どゆこと???

 :自分の装備がわからんとかある?


「あ、いえそういうことじゃなくて。有名な配信者の人って、なんかおしゃれな装備してることが多いじゃないですか。あれってどうなってるんだろうなって思って」


 実際によく調べたわけではないけど、有名な配信者のアーカイブを少し見たりはした。

 特に有名で、ただ映像記録を配信しているのではなく配信に力を入れている人たちは、装備がかっこよかったり綺麗だったりすることが多かった。


 容姿や見た目が大事となる配信者業では、迷宮探索時の装備の見た目も大事だというのは理解できる。

 ただそういう装備をどうやって用意しているのかはわからないし、見た目を重視したもので探索に役立つのかもわからない。


 :普通に買ったんじゃないの?

 :最近は装備に性能に加えてデザイン性も重視されてるからな

 :特注してるところとがあったはず


「あ、今はそんなのあるんですか。じゃあ見た目が良いけど性能が低いとかそういうことは無い感じかな?」


 :それなりの配信者ならしっかりしたもの使ってるはず

 :服だけかっこよくて中の防具はガチとかもあるらしい

 :普通の装備でも最低限デザインは良いし、デザインのために性能を切り捨てるってのは無いと思う

  お金のある人は特注でデザインしてもらうし、駆け出しとかは既製品

 :既製品でも見た目と性能が両立されたのは結構あるよ


 性能を考えるなら見た目に配慮している余地はないと思っていたが、そうではないらしい。

 性能を維持しつつ、その中で出来る限りのデザイン性を考えているのか。

 どうしても見た目か性能いずれかを取るしか無いと思っていたので勘違いしていたようだ。


 そうなると、私が見た目を一切無視して使っているこの無骨な装備も少しは考えた方が良いだろうか。


「そういう感じか~。私は見た目は全く考えてない装備なんですよね」


 私の装備は必要最低限な上に、見た目を考えていないので女性らしさというものがそもそもない。

 髪もショーットカットですら鬱陶しいと思ってしまうたちなので相当に短く切ってある。

 流石にツーブロックで男性並みに短くしようとしたときにはみんなから止められたので一般的なショートカットの範疇におさまっているけど。


 :配信主体じゃないなら良いんじゃない?

 :気にするほど悪く無いと思う

 :普通に可愛いからよし


 思ってたより私の見た目を気にしてない装備でも不満は無いらしい。

 可愛い、はまあ学生時代も受けた評価ではあるのでそうなんだろうと思っているけど。

 まあ視聴者たちが不満が無いなら私が気にする必要も別にないか。


「取り敢えず防具は、ちょっと素材忘れたんですけど、布の部分は全部強靭な素材のを使ってます。ズボンとシャツとインナーですね。上着は1年ぐらい前に8層のモンスターの皮で作ってもらいました」


 正直な話、上着やパンツで守られるような部分に攻撃を受けたらその時点で負けだと思っているので、これらの防具は攻撃の余波から身を守ったり、私が全力で動いたときに損壊しないことを重視して選んでいる。


 上着の下にきるシャツは何枚かあるけど、大体、灰色紺色黒色深緑と暗い色ばかり。

 というのもその上から纏っている暗い赤の上着が少し曲者で、窮屈なので前を閉じる訳では無いが、かといってバタついても困るので胸の辺りで紐で軽く縛っているのだけど、その縛る紐の位置が悪い。


「見てわかると思うんですが、胸が強調されてしまうんですよね。だから見た目上陰影が出ないようにシャツは暗い色になってます」


 :ああ、うん

 :俺たちが気を使って言わなかったこと自分から言う、だと……!?

 サポート部・A:ピピー!! みつるちゃんその発言は女性としてどうかと思うよ!!

 :それはそう

 :いやまあそういう目で見てないかと言われると完全に否定はできんが、かと言って自分から触れられるとちょっと困る


 正直に言ったらみんなから怒られた。

 どうも女性としては駄目な発言だったらしい。


「次から気をつけます……。言い訳させてもらうと、私ずっと迷宮のことばっかり考えてきたからあんまりその辺りの情緒が育ってないと言いますか。多分精神的にも少し幼いと思うんですよ。自分でも思うぐらいなので。そういう、男性女性的なの? も実を言うと知識があんまりないと言うか」


 他の人が人間関係とか苦難や挫折の中で学んでくるものを、私は全部無視して迷宮探索にぶつけてきた。

 その分戦闘力や技術は上がったが、精神的な部分は成長できてないんじゃないかなと個人的に思ってるのだ。


 :そんなになの?

 :純粋無垢なんやね

 :ギルド職員さんこれはどっち?

サポート部・A:ぶっちゃけ言ってる通りちょっと精神年齢幼いってか若い。若いうちに探索者化してるのもあって彼女見た目も若いままだし。これでも26だからね

 :26!?

 :探索者ってことを加味してもまだ20かそこらかと


「そんな若くないですよ!? まあ見た目が幼いのは認めますけど……」


 これは探索者化という現象の代償でもある。

 細かい理屈は省くが、迷宮で探索を繰り返したりモンスターを倒したりすると、魔力の影響で身体が迷宮探索に適したものに変化するのだ。

 こうして探索者に適した身体になることを探索者化というが、その影響で、探索者は歳をとっても若々しい見た目を保つ人が多いのである。


 だから私も、年齢は20代後半でも容姿はまだ良くて大学生ぐらいにしか見えないのである。

 多分概要欄に書いてなかったら高校生と思われてたかもしれない。

 最近の高校生は大人びてるからなあ。

 ちなみに幼いとも言えるレベルの探索者は、その容姿で固まるか急速に大人びるかのどちらかの変化をする。


 :いや見た目若いな

 :まあ探索者は見た目若いしな

 :アイドル系とかその辺メリット多いよな


「もう、説明続けますよ? 一応私が防具として意識して装備しているのは籠手と膝当てと脛当てです」


 話題を戻して防具の説明をする。


 籠手は袖が七分丈になっている上着の下に隠れるような形で装備している。

 これは籠手を隠したかったとかではなく、上着の袖が固定されて可動域が狭くなるのを嫌ってのことだ。

 籠手自体は上着よりも更に分厚く頑丈な皮でできた、衣服ではなく防具である。


 足の方はぴっちりとしたパンツの上に小さめの脛当てと膝当てをそれぞれ別で装備している。

 これも一体化していないのは可動域を考えてだ。


「私の戦闘のスタイルって、基本食らったら負けってスタイルなんですよ。タンクの人みたいに防御力で受け切るんじゃなくて、攻撃を受けないように最低限の防御で軽くして動くっていう感じで。手と足の防具は、相手のモンスターによっては攻撃するときにどうしてもダメージを受けるとか攻撃が届くときはあると思うので、最低限それを防ぐためにつけてる感じです」


 食らわないのが大前提だけど、でもモンスターによってはそれこそ火の中に手を突っ込んで斬り伏せるようなことがあるかもしれないし、尖ったものがかすることもあるかもしれない。

 そういう傷を最低限防げるように、手足の防具は装備しているのである。

 本当なら防具は一切付けない方が望ましい。

 

 ついでに言うなら肘で敵の攻撃をそらすことも考えて肘にサポーターを付けたかったのだが、コレも可動域的に鬱陶しくて今は布を巻いているだけに留めている。


 :スピードタイプか

 :全部自分でやるしかないしなあ

 :ソロだとそうなるんか?

 :結構そういう配信者多くない?


「ですねえ。ソロだとどうしても相手の攻撃を捌くところから攻撃してトドメさすところまで全部自分でやらないといけないので。重たい鎧で受けるスタイルだと反撃がうまくできないんですよね。それで結局、仕留められる前に仕留めろっていうスタイルになります」


 私はそもそもタンクみたいに攻撃を盾で受け止めるスタイルは向いていないと思うし。

 本気で戦うときは私も盾を使うことはあるけど、それはバックラーだから盾というよりは頑丈な籠手ぐらいのイメージで使うし。


 :仕留められる前に仕留めろというパワーワード

 :とんでもない防具使ってるのかと思ったけどそんなことは無いんだな

 :結局地力よ

 :てことは武器が凄いんか?

 :なんで装備のおかげで強い前提なんだ


「防具は性能は良いですけど飛び抜けて凄いかと言われるとそこまでじゃないとは思います」


 まあそれでも、強靭性だけで言えば私の上着だけで6層の金属製フルプレートぐらいの防御力はあるんだけど。

 かと言ってそれでモンスターの攻撃を受けきれるかというと全くそんなことはないし。

 6層のフルアーマーなんて一瞬で引き裂かれるのが9層だ。

 多分先日戦ったスケルトンでも普通に6層相当の金属鎧なら切り裂ける。


「武器は今使ってるのは数打ちの刀ですね。これこそ特に凄いことは全くないというか。敷いて言うなら魔力耐性は高いってぐらいかな?」


 :え?

 :数打ちって、安物ってこと?

 :流石に嘘

 :いや絶対凄い性能のある武器だろ


 まあ、一般人とか中層レベルの探索者の視点だとそうなるよね。


「嘘じゃないですよ。私は武器を強化する魔法を使えるのでそれで強化して使ってるから、使ってるときの性能は高級品と変わり無いです。それに私基準で弱いモンスター相手だからこれで鍛錬してるだけで、本気の時に振り回すのはもっと別のやつですからね?」


 結局なんで高い武器を買うかって、その方が斬れ味が良いし耐久性が高いからだ。

 私はそこを自前の技術でかなりの部分カバーしてしまうので、本気の刀を使うに値する相手以外は数打ちの刀で斬ってるのである。

 先日戦った大水晶蠍だって6層基準では圧倒的に硬いが、9層まで潜ればまあ頑丈かなぐらいに収まるのだ。


 それに武器を強化する技術もそう簡単に使いこなせるようなものではない。

 魔力を練ったり動きを制御したり動かしたり。

 そこは威力や発動速度が探索者自身の技術力に依存する魔法や魔法結晶と同じだ。


 というかむしろ技術としては魔力による武器の強化の方がかなり難しいと思う。

 そんな精密な技術なので私も完璧に出来るわけもなく、普段から練習しているのだ。


 :何そのとんでも技術

 :それが切り札的な?

 :すごい魔法が使えることはわかった

 :それって誰でも使えるの? というか初めて聞いたんだけど


 確かに凄い魔法だと思う。

 ただ、適正によって使える魔法が決まってくる魔法や魔法結晶と違って、魔力を操作するのは誰でも出来る。

 

 そもそも探索者は全員魔力を持っているし、魔法結晶も最低一属性は使えるのでそれを使う感覚もある。

 それをいかに昇華するのかは個人の努力次第なのだ。


「それについては、また別の機会に、ですね。質問にも答えたしそろそろ探索に戻らないといけないので」


 結構長々と話してしまった。

 でも探索者にとっては防具や武器の話というのも非常に大切なものになる。

 そういう話をするのも、探索の促進に繋がるだろう。

 本当はもっと流行ってるメーカーとかそういう話も出来たら良いんだろうけど、あいにくと私は装備に関してもほとんどサポートの皆に頼っているので自分では知らないのだ。


 サポート部・A:今度みつるちゃんに流行りのデザインとか見せてあげるね!

  :配信者育成計画開始は草

  :もっと仕事してもろて……いやこれも仕事か?


 仕事じゃないです。

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