第11話 大海迷宮ラディアント・ブルー

「配信を始めます」


 迷宮に入ってから配信を開始する。

 今日から巡回するのは第4層に位置する迷宮。

 その中でも今日は、世界的にも希少な連結型迷宮と呼ばれる場所に来ている。


 :おはようございます

 :最近目覚ましになってきたこの配信

 :朝早くない? もうちょっとゆっくりしないの?


「私は迷宮探索が仕事で趣味で息抜きみたいなものですからね。疲れたら迷宮の中で足を止めてのんびりしますし、ちょっと身体動かしたいなってなったらモンスターと戯れるので。迷宮内で寝るのが難しいのが悔やまれるところです」


 :迷宮でキャンプがしたいって?

 :異次元なこと言ってて草

 :そりゃ強くもなるわ

 :ちゃんと身体を大事にしてほしいっす……俺らが怒られるんで

 :職員さんに言われてて笑うw


 もちろん身体は大事にするとも。

 強さを求める以上、自分の肉体及び精神の健康は大前提である。

 ギルドに入ったのだって、1人で色んなことをやりつつ最強を目指すよりは、バックアップを受けながら最強を目指したほうが長期的に得だと思ったからだし。


 さておき、取り敢えず人も来てくれたので一度足を止めて今いる迷宮の解説でもしておこうか。

 こういうのも探索を促進するのには大事だっていうしね。


「人が集まってきたので、取り敢えず今から巡回する迷宮の説明しますね」


 カメラを操作して、移動したエリアから見える光景を映し出す。

 太陽を照り返してまばゆく輝く青と白。


 :海だー!!

 :海のところか。見栄え良いよね

 :眩しい

 :大海迷宮ラディアント・ブルーだっけ?


 今私がいる迷宮は、海と海辺が主な地形となっているエリアだ。

 ちなみに海辺だけでなく水中にも強力なモンスターが結構いるらしく、この迷宮に関してはエリア端が確認されていない。


 エリア端というのは言葉のとおり迷宮のエリア制限のことだ。

 洞窟迷宮や水晶迷宮など閉所の迷宮ならばそのまま壁や床がエリア制限となるが、ここの海やおそらく第9層の遺骸迷宮ボーンルインズみたいな森がひたすら広がっている迷宮ではそうではない。

 見た目上は迷宮に端がなくどこまでも行ける。


 実際はそんなことは無くて、例えば遺骸迷宮なら森の一定地点に見えない壁のようなものがある。

 まあそれがとにかく広いから私もなぞってはいないんだけれど。

 

 そんな感じで、必ずどの迷宮にも見えない障壁によるエリア制限がある。

 ここ大海迷宮ラディアント・ブルーでは、海上の移動の困難さからその実態が確認されていないのだ。


「そうです。大海迷宮ラディアント・ブルーです。それで、ちょっとした豆知識を、知ってる人もいると思うんですけど、話しても良いですか?」


 :ぜひぜひ

 :いいぞー

 :迷宮の豆知識とかそういうの好き

 :とんでもない知識飛び出そうで草


 残念ながらここについてはそんなのはない、はず。

 だって私もインターネットで見て実際に試してみただけだし。


「この迷宮のエリアって、真ん中に海があって、それをこうぐるっと円の線の部分にだけ地面があるような形になってるんですよ」


 :ブルーホールみたいな地形よな

 :シンプルに綺麗

 :あそこ海はどうなってんの?

 :調査不能だからわかってない


 ブルーホール?

 何か有名な地形だったりするのだろうか。

 後で調べてみよう。


「ブルーホールっていうのは私はわからないんですけど、そういう不思議な形をした迷宮です。で、ですね。ちょっと遠いのでカメラじゃ見づらいとは思うんですけど──」


 ドローンを操作して、カメラをここからも遠くに見える陸地の一角に向ける。

 この迷宮の中でも、特に岩場が集まっている場所。


「あのあたりに干潮時にだけ入れる洞窟があって、それを通ると、ここの迷宮の地面の下にある別の迷宮に繋がってるんですよ。だからここは、世界的にも希少な連結型迷宮なんて言われてます。まあ日本には他にもあるんですけど」


 :地海迷宮ビハインド・ブルーだな

 :どうやって確認したんだっけ?

 :無人潜水艇の映像で調べたらしいです。

 :無人ならモンスターもそんな攻撃はしてこんからな

 :そんなに(n敗)

 :え、じゃあどうやって行くの?


「地海迷宮にはここの迷宮とは別の場所から転移魔法陣が繋がってて、それで最初は移動してたらしいですよ。むしろ別の迷宮だと思ってたら、後から行った無人潜水艇の調査で地続きだとわかって当時は混乱したらしいです」


 このあたりも色々と当時面倒くさい話し合いが行われたらしい。

 物理的に繋がっているならばそれは同じ迷宮だというのが世界的にも常識だったけど、人の身では移動できないし、迷宮の情報が無いかと解析していた魔法陣に記された迷宮名に該当する部分が別物なので議論は盛り上がった。

 結果として、物理的に繋がった別の迷宮ということで連結型迷宮と分類されるようになった。


 :この配信者なら普通に泳いでいきそう

 :海は無理だろ流石に

 :わざわざそこ通らなくても今は転移魔法陣で行けるしな


「あ、潜ったことありますよ」


 私はもちろん潜ったことがある。

 いやまあ水中って人が活動する領域じゃないと思ってるから積極的に潜りたいというわけでも無いんだけど。

 でも私の仕事を考えると、水中での長時間活動もいつか必要になる可能性があるのだ。


「私は誰も入ったことのない、事前情報が一切ない迷宮の開拓をやってるので、いつか水しか無い迷宮に当たる可能性があります。そのときに困らないように、魔法を使って水中を探索する技術を身に着けたくて、その題材にちょうど良かったから潜ったんですよね」


 :既にやってて笑う

 :思った以上にちゃんとした理由だった。潜ってみたかったからとか言うかと

 :好奇心じゃなかったんだな

 :結構考えてるんですね


 失礼な。

 確かに私は迷宮が好きだけど、ちゃんと色々考えているのだ。

 命を賭け金にして迷宮を駆け回っているのだ。

 ただ好奇心に引っ張られて無茶なんてしない。


「これでも色々考えてますからね? そもそもこの迷宮でさえ、海岸に来ないモンスターは倒せていないんですよ。ここはまだ陸で活動してれば水中のモンスターとは関わらないで済むから良いですけど、私が開拓した先の迷宮に水中から襲ってくるモンスターとかいるかもしれないじゃないですか。そういうのを仕留められないと私は仕事なくしますよ」


 :言われてみれば?

 サポート部:それぐらいでクビはないです。向上心高すぎますよ~

 :ワロタww

 :なんでもかんでも出来たら良いってわけでは無いのでね

 :無茶はしないでください

 

 まあ本当にクビになるとは思ってないけどね。

 でも私は、迷宮を開拓し一番最初に情報を届ける仕事に結構プライドを持っているのだ。

 出来る限りはやっておきたいのである。


「そういうちょっと特殊な迷宮を今日は巡回していきます。まずは地上をぐるっと回って、その後地下に入く感じで。それじゃあ今日もお仕事始めていきますね」


 :頑張れー

 :4層ぐらいになると、長生きのモンスターとかもいないだろうな

 :中層は探索者来るからな

 :ここってボスっぽいのいたっけ?

 :おらんはず。地下の方は配信がほとんど無いからわからんけど


 大体4層ぐらいになってくると、探索するために訪れる探索者もそれなりに増えてくる。

 私が配信をしている間も、転移魔法陣から一組のパーティーが出てきて探索に向かって言った。 


 非公式の表現だが、迷宮の1・2層を上層、3・4層を中層、5・6層を下層なんてまとめて言ったりする。

 上層は初心者から中堅が入る幅広い場所で、言わばそれなりの冒険者なら探索が出来る場所。

 中層はベテランや腕利きなど安定して探索が出来るだけで一定以上の腕がある証明となり、探索者として優れていると認められる場所。

 そして下層は、探索者の中でも一握りの凄腕やベテラン、命知らず達が踏み込む場所と言われる。


 その基準で言うと、4層というのはある程度探索者としての実力がある者たちならば十分に探索が出来る場所なので、5層6層ほど人がいないということにはなり得ない。

 まあ中層内でも3層が上層から先に進んだ探索者達を受け入れ、その中でも実力のある者たちだけが4層へと進んでくるので、言うほど多いというわけではないけど。


 このあたりの曖昧さ見ても、上層中層下層という大雑把な区分けは意味がないものだと思う。


 :ここのモンスターってどんなのがいるっけ?

 :話題と全く違う質問あるんだけど、しても大丈夫?

 :初見か?

 :いやしばらく黙って見てたけど気になって


「あ、質問ですか? 全部は答えないですけど、する分にはしてもらって大丈夫ですよ。一応この配信は迷宮に関する広報的なところもあるので」


 配信を始める前は、質問に答えるの大変そうだと思っていたが、いざやってみると意外と困らない。

 視聴者が少ないので質問が答えきれないほどの量にならないというのもあるだろうし、質問の内容が私の専門分野である迷宮探索関連ばかりというのもあるだろう。


 さあ、今度はどんな質問だろうか。



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続きの先行公開を、カクヨムのサポーター(ギフト)機能の近況ノートと、ファンボックスでしています。

今現在第20話まで公開中。


通常の更新もしていきますが、応援してくださる方がいらっしゃればお願いします。



追記:第21話、22話まで書き上がりました。


カクヨムでの投稿ペースは多くても一日一本か二本です。

なるべく効率よく、読者さんの目に着く時間帯に投稿したいので。

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