第2話・鉄面姫女史
――そして翌日。
「零士クン、遅い!」
空港でチケットを受け取る為に本社の人と待ち合わせをしていた。待ち合わせ時間ぴったりに到着したのだが……まさかそこにいたのが
https://kakuyomu.jp/users/BulletCats/news/16818023213305592804
「いや、丁度ですし……」
「社会人は5分前行動が原則です」
そんな事言われてもなぁ。遅刻してないのに文句言われるってなんなんだよ。
「はい、これチケット。
「はあ」
「ちょっとなによ、その覇気のない返事は」
「いや、何でオレなのかな~と。
「ああ、それはね」
……それは?
「私が推薦したのよ」
……あんたかよ。
昨晩家に帰り着き、3日ぶりのシャワーを浴びようとしたところに先輩からLINEが入った。『本社スタッフと空港で待ち合わせして、チケットや注意事項諸々を確認する様に』と。ご丁寧に『読み終わったら確認のメールを返信せよ』と追伸のおまけ付きで。……何故かLINEをメールっていうんだよな、先輩は。
「ちょっと、聞いています? 零士ベルンハルト」
「ああ、はい。大丈夫です」
その本社スタッフがこの人、
「もう、ネクタイ曲がってるじゃない。しょうがないわね」
と言って、頼んでもいないのにオレのネクタイの位置を直し始める女史。先輩によると『気に入られた奴は優しく接してくれるって話だぞ』という事なんだけど、それが本当なら、オレは気に入られているという事なのかもしれない。……かんべんしてくれ。
「髪の毛もボサボサでもう。ほらちょっと、動かないで」
もちろん悪い人じゃないし、一般的に見ればかなりの美人だと思う。実際今もチラチラと見てくる男が多い。無駄に注目を集めて、それでいてオレの世話を焼くとか周りの視線が痛いのですが。
アーモンド形のクリクリとした目にプルンとした唇。黒髪のロングヘアはつやつやと輝き、シンプルな白いブラウスと7分丈のスキニージーンズをラフに合わせている。そして素足にカカトが高めのパンプス。身長はオレと同じくらいなのに、履いている物のせいで170センチはあるだろう。……おかげで今は見上げる事になってしまっている。
「ほら、背筋伸ばしなさい。シャキっとしなさい、シャキっと!」
「はいっ……」
ただこの、何と言うか……ものすごく子供扱いしてくるんだよな、この人。それがもう心底苦手で、“関わりたくない人TOP3”の一人だ。
「
「はあ、そうっすか」
「だから曲がっていてはダメなんです。貴方を引き立てる名脇役なのですから」
「……100均のネクタイにそこまで求めては可哀想です」
「何かいいました?」
「あ、いえ、なんでもないっす」
だめだ、どうもノリが合わない。ここは早々に退散すべきだな、申し訳ないけどさっさとラウンジに行ってしまおう。
「あの、急な渡航準備で昨日殆ど寝てないんすよ。搭乗前に軽く寝ておきたいんで……」
「あ、ごめんなさい。そうよね……」
え、何でそんなに申し訳なさそうな顔をするんですか。……鉄面姫でしょアナタ。
「えっと、その……これを渡しておくわ」
と、差し出してきたのは白い小さな袋。どう見てもこれ、神社で買って来たお守りが入っているよな。普通こういうのって、同僚が、それも支社の社員が渡航する程度で渡すもんじゃないだろ。流石に断ろうと思ったんだけど眠気が先に立ってしまって……
「あ、はい。何か解らないけど預かっておきます」
と、とぼけた事を言って受け取ってしまった。頭の中は『早く寝たい』って事ばかりで、なんかもう色々面倒に感じてどうでもよくなっていたってのが本音だ。
「頑張ってね」
「はあ、適当にやっておきます」
「そんな事言わないの。戻ってきたら出世コースよ!」
出世コースとかそんなのに乗せないでくれ。オレはこのままずっと、気楽に設計だけしていたいの。
「遠慮します……」
ため息交じりに返事をして搭乗者用のラウンジに向かう。実はその時、以前先輩が言っていたひと言が頭の中をよぎっていた。『鉄面姫女史には気を付けろよ。間違って結婚なんかしたら、腰の振り方にまで文句言ってきそうだからな』
……くわばらくわばら、と。
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(注)英語圏においてnecktie と言う表記は現在ほぼ使われておらず、tieを使うのが一般的です。意味は『縛る・繋ぐ・引き分ける』等。
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