第3話 王の儀式

レイとクラウドは、屋上にある聖壇『龍の腰掛け』に着くと、ほぼ同時に頭を下げた。


「参りました、グランズ王」

「只今参りました、グランズ王」


レイの長髪がさらりとこぼれ、甘い香りがただよう。

その匂いはクラウドの鼻をくすぐった。


「うむ」


そう言われ、頭を上げる二人。

グランズ王を一回見てから、ぐるりと視線を周囲に走らせる。


騎士団員らも、既に数部隊参列している。後列まで顔はハッキリとは見えないが、緊張しているように見える。

ここらに召集される団員は、割と上の方の人間である。よって、それなりに場数も乗り越えているが、今回のケースはレアすぎる。よって、経歴関係なく、緊張しているのだろう。


二人を連れてきたハーストは、王と二人に一礼し、列の端に加わった。

と、王の間近に、明らかに二人分のスペースが空けてあるのが見えた。


(……俺たちはあそこか)


別段指示された訳でもないが、自然の流れでその場に入る二人。


「待っていたぞ……」


二人を確認すると、豪華に飾ったローブを着たグランズが、ゆっくりと立ち上がった。

ブルーアイで、金髪をオールバックにした中年の男が、この国の王グランズだ。


ただ、気になることがある。


(いや、待っていたのはこっちなんだが?)

(なぜ、こっちがが待たせたような言い方を……)


という言葉を、レイとクラウドは飲み込んだ。

そういうことが言える雰囲気ではなかった上に、無意味に発言し、これ以上先送りされるのは御免だからだ。


グランズは、そのまま聖壇へと移動した。

聖壇には、黒で書かれた巨大な紋章が書かれている。

この黒は、単なる絵の具やインクではなく、龍魂を管理している霊能者が書いた紋章。

特殊なもので描かれている。


「……早速始めよう」


グランズは豪華なローブを脱ぎ、両手を前へ突きだし、「ぬん!!」と、気合いを入れた。

気合と同時に、龍力も引き上げていく。

彼の龍魂ードラゴン・ソウルーが発現され、光の力が強くなっていく。

即ち、彼は『光龍』に属する力を有している。 


このグランズの儀式では、闇龍をはじめとした危険性の高い龍魂の消滅、つまり、完全に闇の属性の龍魂を消し去ろうという、国の王らしい儀式である。


龍魂ードラゴン・ソウルーは、国で管理されている資格の一つ。

当然、試験で『ふるい』のかけ、かつ、合格者の適性を見て付与している。そうすることで、危険人物に危険な龍魂を付与しないように注意を払っている。

しかし、あくまでも『試験合格時点』での話。人生は何が起きるか分からない。

予期せぬ事態が起こった時、犯罪率が高くなるのが、闇龍使いだと傾向が出ている。


だから、闇龍適性者には申し訳ないが、国としてリスクを減らすためにも、このような儀式が必要だと王は判断し、決行したのだ。


さて、レイたちが見ている間にも、グランズ王の強い光龍が充満し、紋章へと力が伝わっていく。


それは、ゆっくりと伝達され、聖壇に描かれた紋章を覆うように定着する。

と、定着したであろう部分の紋章が光輝いた。


なるほど、龍力に反応して発動する紋章か。クラウドは目を細める。

あれは、どの属性の紋章なのだろうか。というか、あんな紋章、存在していたのか。


(あれは……光龍?と、闇も……)


隣のレイは、あの紋章の構造について考察していた。

一見、初見の紋章にも見えるが、部分部分に各属性の紋章が組み合わされている。

呼び寄せるために必要な構造なのか、グランズの龍力に適応させたものなのか。


気持ちに余裕がある者は色々考察しているが、団員たちにその余裕はない。

見なくても、隣同士の空気感で、息を呑んでいるのが分かる。


「……!!」


時間が立てば、グランズの力によって、全世界に散らばる『黒の龍魂』が集まってくるはずだ。

グランズの龍圧、紋章の光、ピリつく空間。

その迫力だけで、聖壇に集まっている団員たちが、呼吸を忘れる。


「順調だな」


レイがクラウドに囁く。


「あぁ……」


頷き、クラウドも囁き返す。

ここまで、特に異常は見られない。紋章の光も落ちることなく、順調に光っている。

うまく行けば、闇龍が消え去り、この国の犯罪率は大幅に減少する。


と、紋章の光が更に強くなった。


(紋章が完成した。あとは、維持、か……)


光が強くなったのは、紋章が完成した証拠。

ここから、彼はこの水準の力を維持する必要がある。


クラウドは目を細める。


(正念場だぞ。グランズ……)


時間が経つにつれ、グランズの頬には汗が流れていく。

疲労と緊張。精神的にも、肉体的にもきついだろう。果たして、うまくいくだろうか。


「く……」

「……来た」


数分経過した頃だろうか。

光り輝く紋章を通じて、グランズの両手を包む何かが現れた。

これは、凄まじい程の龍の魂『ドラゴン・ソウル』の具現化した、黒く、毒々しいオーラだ。


一つ、留意点として、龍魂自体は、黒く、毒々しいものではない。

炎龍、水龍、光龍や雷龍など、赤や青、黄色や白をイメージさせる龍魂も存在する。


人々は、その龍魂と上手く付き合いながら、生きてきた。


龍の魂。

『ドラゴン・ソウル』を人に定着させるには、主に二通りある。


一つは、身内が亡くなった際、そこから引き継ぐ方法。龍魂を得る『だけ』の難易度で言えば、だいぶ落ちる。身内であれば、その属性の龍が定着しやすい。手段が手段だけに、ケースは少ない。


もう一つは、難易度の高い資格試験に合格し、適性があると判断された者。よって、主な入手法は、試験となる。


試験を突破し、霊能者に「○○の属性に適性がある」と判断されれば、これも定着が容易だ。こうして、龍力者として龍魂と共に生きていくこととなる。


龍魂は、それを持たない人間と比較して、大きな力を得ることは確かだ。

それが悪い方向へと働き、力に溺れてしまう人間は少なくない。国で適性を見ていても、だ。


大きな力を持つ者の責任。

それが果たせずに、同じ龍力者によって捉えられてしまう。


グランズはこの嫌な流れを断ち切るべく、統計的に悪に染まりやすい闇龍にターゲットを絞り、儀式で消滅(成仏)させようとしているのだ。

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