最終話

 会社の窓際で、僕は下を覗いた。ひっきりなしに、往来する赤や青や白や黒の玩具みたいに小さく見える車が、滲んで溶けた。社員証の入ったカードホルダーが風に煽られては僕の首から離れようとして、また静かに僕の胸元に戻ってきた。


 出来ることなら、この1ヶ月を全てなかったことにしてほしかった。琉依の居ない僕の世界は、琉依と出会う前よりもずっとずっとつまらなく思えた。琉依と出会わなければ、この世界の美しさに気づかずに済んだのに。


 琉依がこの世界のどこかに存在していて、【僕】じゃない誰かと笑っていて、灯りの点った温かい場所に帰って幸せそうに眠る姿を想像しただけで、胸がはち切れそうであった。とても琉依の幸せを純粋に願えそうにはなかった。僕は本気で運命だと思ったのに、琉依にとっては[ごめん]なんて一言で終わってしまうような軽い関係であった事実を突きつけられて、僕は世界の全てを恨んだ。


 ふと顔を上げると、そこには雲ひとつない青空が広がっていた。琉依もこの空をどこかで見上げてるんだろうか。そう考えてしまう自分が嫌になる。それなら、いっそ________。

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