第3話

「ねえ、会いたいな」

 程なくして、琉依はそう言った。初めて話して2週間が経つ頃であった。僕も同じ気持ちだった。勢いで一週間後の日曜日に会う約束をした。日曜日に琉依に会える。いつも鉛のように重たい僕の中の秒針が、日曜まで一気に早まったようだった。


 日曜日、人のごった返す駅で見つけた琉依は思っていたよりずっとずっと綺麗で。僕の中で琉依の存在は何よりも尊いものになった。この世で一番美しくて穢れのない、そんな唯一無二である。本気でそう思った。

 その日は僕の人生の中で一番と言っていいほどなんの過不足もない完璧な一日であった。世界が高彩度で、駆け足で過ぎていった。夢のような世界であった。


 また会おう、と約束して改札で別れた。僕は最後まで琉依の後ろ姿を見送った。でも人混みに溶けてすぐに見えなくなってしまった。思えば僕はこの時から一抹の不安を抱えていたと思う。琉依なら、きっと改札を通り過ぎたあとも振り返って僕に手を振ってくれると思っていたのに……。

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