第2話
その時、手に握った携帯電話の画面がパッと明るく光り、震え始めた。電話だ。知らない番号であった。いつもなら舌打ちして、電話を取ろうとは思わないのに、その時は気でも触れていたのか、電話を取ってしまった。
「……もしもし?」
「ねぇ〜!今日はずいぶん遅かったんだね!待ちくたびれたんだから〜!」
若い女性の声だった。記憶にない、明るく歯切れのいい声。でも何処か、懐かしくて。その時枯れ果てたと思っていた感情が、波のように溢れてきた。
「ちょっと、どうしたの!?」
女性は驚いていたが、
「……辛いことがあったんだね。しんどかったね。よく頑張ったね」
女性が優しい声で一言発する度、僕は情けなく瞳から大粒の雫を零していた。傍から見たらどれだけ滑稽な光景だろうか。久方ぶりに触れた人の優しさに、感情が揺れて止める術もなかった。どうしようもなく、初めて聞いたはずのその声に焦がれてしまった。
落ち着いたところで、僕は彼女に尋ねた。どうして僕に電話をかけたのか?と。彼女はミステリアスに笑って、ただなんとなく、と答えた。答えになっていなかったけれど、僕は彼女と話すだけで随分心が落ち着いた。彼女は琉依という名であった。
その日は夜更け過ぎまで琉依と話した。琉依は僕の写鏡のような存在で、まさに探し求めた片割れのようだった。その日から毎日夜に電話をするようになり、琉依と何時間も話すようになった。琉依と話す時間の為だけに生きているようだった。味気ない世界が、色付いた瞬間であった。その時だけが【僕】で居られたんだ。
しかし同時に、琉依との通話が終わった瞬間に、どうしようもない喪失感に襲われた。琉依を失った時、僕はきっと壊れてしまう。その日が僕の最後の日かもしれない。頭の何処かでそう考える自分がいた。嘘偽りなく、一切の誇張もなく、琉依だけが僕のすべてだった。
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