FLOWER

お母さん。

あなたの可愛い孫を連れて来ましたよ。

彼女の名は花からいただきました。

長生きを願って。

その花の別名は長命菊です。


孫娘は、あなたがこんなに具合が悪いとは思わなかったようです。

私も考えていました。

果たして彼女が受け入れられるのかと。

日々、生きることと死ぬことを鏡にしている花の娘。

片方は白百合で歪んだ方は黒薔薇です。

どちらが実体かも既につかなくなっています。

ひび割れも生じて触れると破片が飛び散ります。


そのキリキリとした娘の祖母は、入院したばかりの病院にて転倒したことを皮切りに、祖父が祖母の拘束を嫌って退院させられるやいなや、夜に頭痛を訴えても祖父はアルコール消毒中で、朝の仕事に行くまでもう魂が泳いでいたのに気が付かなかった始末でしたね。

今更手術するのは賛成できないと病院側に断られたのに、家族はお願いを希望を託しました。

それが昨秋の脳の手術でしたね。


それでも、八月の向日葵に間に合うように。

自分の誕生日を乗り越えて。

また、秋を去ろうとしています。


お母さん、今日はお隣の患者さんにもお見舞いの方がおりましたね。

私が娘に教わった歌をそっと触れながら届けました。

おかあさん、なあに、おかあさんっていいにおい――。

本来の歌詞ではお洗濯やお料理のいいにおいなのですが、とびきりの花束であなたの目覚めを誘いたいと思います。

私の描いたヤマユリの花、私の育てた孫の花、あなたが生み苦労をかけたとしか思えない花、静江。


お父さんは二人までしか来られないので、一階にいます。

九階の眺めは如何ですか。


医師にもお会いしまさした。

お話されるそうですね。

昔聞いたあなたの優しい歌声を、まだ孫に聴かせているのですよ。


華道の看板を持っていましたね。

お正月に笑い合える日を楽しみにしています。

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