第4話 地球の如き異星

 覚悟をもう一度決めて、自分の宇宙船から離れた。


 熱帯雨林のように広がる森を進んで行く。


 行方不明の宇宙船からの信号によって、宇宙船の位置は把握していた。


 前方500メートルの地点に行方不明の宇宙船は存在しているとレーダーは探知していた。


 異星の植生の確認のためにも、もし行方不明の宇宙船に異常があった場合でも、自船が巻き込まれないようにするため、徒歩での移動を試みる。


 森林を歩く。


 奇妙な体験だった。


 地球ではないのに、地球を歩いているようだ。


 あまりにも巨大に作られた映画のセット、それに近い。


 『誰かが』、『作為的に』、そう考えてもおかしくない事象。偶然とは言い難い事件が、ここでは広がっているのだ。


 ここが地球だと思えば、異変らしき異変はない。


 しかし昆虫を含めた動物が存在しないこと、空を見上げると月の5倍はあるような大きさの衛星が浮かんでいること。


 それを考えると、ここが紛れもなく異星であることは疑いようがなかった。


 気分が悪くなるのを感じる。少しだけ膝に力が入らなくなっているのが分かる。


 ストレスには耐性があると自負していたし、ストレス耐性試験でも合格を受けていた。ここまで心因的に疲労していることに驚いたし、自分の精神状態を嘲笑した。


 「大丈夫だ。なんとかなるさ」


 ここは言わば戦場だった。助けを呼んでも期待できない、危険区域。宇宙という場所はそういう所だった。


 代わり映えのない木々。その間を縫って森を歩いた。


 淡々とした作業は問題なくできるが、それでも音ひとつない場所をただ歩くのは気が滅入ってしまう。


 その時だった。


 「ッ!」


 転んだ。


 地面にある窪みに気付かずに足を踏み外してしまった。


 重心がずれて、体が大きく傾く。


 咄嗟に地面に手を突こうと思ったが、そこにあったのは地面ではなく穴だった。


 地面に空いた空間。地面に唐突に出来ている穴場。その窪みに体が落ちていった。


 「あッ!」


 高所からの落下。


 重力感がなくなり、内蔵がせせり上がる。


 身が縮みあがり、衝撃に備えた。


 穴へと落ち、暗闇に身が沈む。


 視界が暗くなるのと同時に、意識が黒く塗り潰されるのを感じた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る