第3話 散乱する疑問

 異常が見つかったのは今から一年前のことだった。


 異常が発見された。そうアメリカの宇宙研究員が発言したことが、ことの始まりとなる。


 「恒星系が移動している」


 30光年先の恒星系の惑星間距離が変化している。天体望遠鏡から、それを発見したのだ。


 尋常の物理現象ではなかった。年間数ミリ単位で惑星が恒星に向かって近づくのなら分かるが、『H2P4』は数ヶ月で数万キロも恒星向かって移動していた。


 普通の惑星周期では説明のつかない事象であり、慣性や遠心力の他に何らかの外力が加わっていると説明づけたが、何の力かを証明することは出来なかった。


 驚くべきはこれから後のことだ。


 その惑星が恒星との距離を一定に保ったまま、また恒星を中心にして同心円状を周回し始めたのだ。


 その惑星と恒星との距離から、惑星の気温が-10〜+50度に保たれていることが発見された。


 あらゆる天文学者がその事象について頭を悩ませた。何者かの意図的なものを感じ取ったのだ。


 人類に惑星を移動させるような技術は存在しない。


 つまり人類には理解はもちろん、観測することすら困難な力だった。


 人類外の何者かが30光年先の異星の恒星距離を意図的に弄った、そのように見えるのだ。しかも『生物に適した惑星になるように』、である。


 「宇宙人による作為的なもの」と書かれた論文を発表した大学教授も現れ出した。


 何はともあれ「人類に適した星が発見された」というニュースが世界を巡った。


 早くワープを用いてその異星を探査すべきという声があがったが国連の考えは慎重だった。


 一つの事件が起こっていたのだ。


 『救助を求む』


 そう記された救難信号が話題の異星『H2P4』から送られてきた。


 その信号を受信したのは異星『H2P4』の移動を観測してから二ヶ月後のことだった。


 そしてその信号が行方不明になった宇宙探査員によるものだと、国連は確認した。


 宇宙探査を行っていた人員が二人、この異星が属している恒星系内に入った途端に連絡が取れなくなった。


 宇宙探査を行うなかで調査員が行方不明になるのは多々あったが、行方不明になった宇宙船から信号があることは極めて稀だった。しかも行方不明から一年以上経過した機体からの救難信号は初めてのことだった。


 レーダーに反応出来なかったはずの宇宙船、それから送信された信号が地球にかけて届いたのだ。


 そしてその宇宙船が消息を絶ったのは『H2P4』の恒星系圏内だった。


 唐突で異常な動きを見せる異星『H2P4』、そして『H2P4』から送信された行方不明の宇宙船。


 異星『H2P4』と地球には30光年の距離があった。普通この惑星から送った信号は30年かかる。しかしワープホールを使用する情報共有システムにより瞬時に連絡をとることができた。


 ワープホールを通った電波は30光年の距離を飛び、すぐさま地球に届いた。


 しかし、その信号が地球に来たのは宇宙船が行方不明になってから半年後のことだった。


 その信号からその宇宙船の居場所を探ってみると、この惑星を見つけたのだ。地球の植生をもつ異星があったのだ。


 「救助を派遣する。返信されたし」


 そう地球側から信号を送っても、返信は返ってこなかった。


 謎が謎を呼ぶ事案だった。


『なぜ異星「H2P4」の区域で行方不明が起こったのか?』


『行方不明の探査員は今どこにいるのか?』


『どうして異星が地球のように変化したのか?』


『探査員が行方不明になっていた8ヶ月間、何があったのか?』


 その謎を解明するための調査でもあった。

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