滔々とした思索
あんちゅー
それは流れて死んでいく。
人の一生を川の流れだと例えるとする。
そうすると、全ての川の行き着く先は海になる。
私たちは皆同じ所を目指していることになる。
結局のところ行き着く先が同じものになるのならば、私達が頑張る必要はなく、富と名声も、それから煩わしい人間関係でさえ必要では無いのです。
大勢の拍手が聞こえた。
彼の周りにいる人々は貼り付けたような笑顔を浮かべる。
彼は気味が悪いと思った。
そう思いながらも
それならば緩く生きて死ねばいい。
そう言った彼の周りに人々は群がった。
その時誰かが石を投げた。
人の一生を川に例えて何の意味があるのだと叫んだ。
誰かが投げた石はカツンと音を立てて転がっていった。
彼はその問いかけに何も答えなかった。
石を投げた誰かはもう一度言う。
同じ場所を目指すのなら、何故その川の1つとして同じものがないのかと。
人々はその言葉を無視して彼に笑顔を向けた。
けれど彼はその誰かから、目が離せなかった。
古びた布を巻き付けたような格好で、身体中が垢にまみれている。
表情は、死ぬ前のような悲しい顔をしていた。
誰かは続けて石を投げた。
今度は彼の周りの人達の何人かに当たり、その何人かが倒れた。
周囲の人々はそれらの人々には目もくれない。
誰かは続けた。
川幅や流れに水質、その見た目だって1つとして同じものは無い。
なんで、そんな風に差をつけている。
それは川が途中で途絶えてしまうからだ。
辿り着く場所はその人々の滔々とした人生の中で、維持を貫いた先の到達地点だ。
彼は叫んだ。
息が細り、多分それは最後の叫びだった。
無駄だと言い切るお前が憎い。
その誰かはそう言うと、自分の頭をこぶし大の石で殴り始めた。
鈍い音がして鮮血が吹き出す。
彼のこめかみ辺りから滴る真っ赤な血をみて、慌てた彼は取り繕うようにして同じ場所を同じような石で殴った。
彼の手が血で染まる。
地面におびただしい血液が広がった。
人々は表情を変えず、血を浴びた。
彼は倒れもせず、死にもしない。
その代わりに彼の目に映る誰かは背中側から倒れ、動かなくなった。
それっきり動き出すことは無かった。
人々の狂乱だけが聞こえる。
それは悲鳴ではなく、歓喜の声だ。
行き着く先が人の死だとするのなら、人の生きる意味はどこにあるのだろうと彼は思っていた。
大人になるまえ、もしくはなってからも、沢山の人と出会い、繋がりが生まれた。
けれど彼らが死んでいけば、彼らとの繋がりはすっかり切れてしまったように思った。
生まれ落ちて、死に果てる。
その意味を探す度、彼はその生が無意味だと感じた。
ある時、彼にそれは話しかけた。
その生は神のためにあり、その死は神のためにある。
得体の知れない、気味の悪いそれらは、そう言って彼に消えない模様を刻んだ。
それはまるで人を殺せるような幾何学模様であった。
それから彼のまわりには人が集まった。
人々の張り付いた笑顔は、不思議と彼の口をつらつらと動かした。
考えずとも言葉を口にするだけで、それはまるで力を持っているようであった。
彼はその誰かを抱えて、立ち尽くす。
彼はおおよそそれまでの人生をどう生きたのだろう。
果たして見つけられたのだろうか。
そうだとすれば、彼はとても羨ましいと思った。
人の生とは、川の流れのようなものだ。
それは滔々と流れ、最後にはひとつの場所に流れ着く。
終わりは近く、目的は果たせないままでいた。
それらに付けられた模様は今では彼の肉を喰らい始めていた。
幸いなことに痛みは感じない。
きっと私は最後にはなくなってしまうのだ。
体の残った彼が羨ましかった。
全ては神の御心のままに。
それらは口々にそう言った。
崇め奉ることしか出来ないのだ。
神はもういないというのに。
滔々とした思索 あんちゅー @hisack
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