第11話

 目の前にいる私に気づかない奈々美は愚痴を始める。とても穏やかでニコニコしている彼女だが、私だと知らずなんかいつもよりも声が低くぐちぐちとした言い方。初めて見るわ。

 彼女は義理の弟秋利さんの嫁になるのだが彼らの実家からやや遠い場所でアパートを借り、イベントの時に帰ってくるかそうでないかである。

 その時の彼女は取り繕ってる姿だったのか。結婚前も私料理できますわ、とおせち手作りで持ってきたけどそれだけで、結婚したらおせちなんて作ってませーん、手抜きでーすとか言ってたなぁ。


 私はカードをめくる。ああ、本当に散財。まだまだお金は減っていく一方ね。凍えて寒そうな親子のカードも出てくる。


「……彼にもともと貯金もなくて借金や奨学金返済とかあったなんて知らなかったし」

「いつ頃ご存知でしたか?」

 知ってるけど聞く。


「結婚式準備の時です。彼は交友関係が広くて……全員呼ぶ! とか言ってさ……彼の友達だけでも100人超えちゃって……」

 そうさ、覚えてるわ。あんなど広い式場、こちとら遠くまで来たのにも関わらず……当時倫太郎もまだ小さくてやんちゃでわがままで。

 友達ファーストな結婚式だったからすっごい退屈した倫太郎が小鳥遊家親戚のテーブルクロスを思いっきり引っ張って大変な思いしたのよね。

 それにもかかわらず友達メインの演出で親戚、義父母たちがため息ついて文句ばかり帰りの車の中で聞かされたっけ。


「私は貯金をしっかりしてたけどその時に彼が貯金がない、借金だらけというのを知ったのです……入籍後、式場予約した後で」

「あらあら、大変でしたわね……」

「ほんとーに、私貯金しておいてよかった! と思ったけどそうすぐ出してたまるかと思って、あんたの実家に頭下げてお金借りてこいって初めて怒っちゃったー」

 ……うわ、そんな言葉使いする子だとは知らなかった。いつも潮らしい気持ち悪い笑顔で内心腹立ってたのよ。


 それにその場面を知ってる。義父の前で秋利さんと奈々美さんが頭を下げてる場面を見たのよ。珍しく実家に来たと思ったら……お金かよって。


 てか結婚式の資金だなんてうちらの時には貰ってないんですけど。

 しかもケチの夏彦のせいで何でもかんでもケチって陰でケチケチ結婚式とかいわれてたんだから。はぁ。カビ臭い汚い小さな集会場みたいなところでさぁ。はぁ。


 着物だって義父母たちが着たものだとかで……あー、イライラしてくる!!!


「で、しばらくも義父さんから秋利さんはお金をもらってて……」

 ……それも知ってる。何かあるにつれて普段は私たちに義父母の世話を押し付けてるこの夫婦が来たらお金がなくなった、ということなの。それは知ってるし夏彦は自分は貰ってないのに……(もらいたいところだが長男のプライドとして出来ないらしい、よくわからんけど)ってキリキリ奥歯噛んでたわ。


 私はまたカードをめくる。

「まだ借金も返済してないし……去年だって増やした仕事でストレス溜めて夫は倒れて入院もしてる。私の実家が立て替えたけど……まだ返してもらってない……」

 そうね、そういえば……そんなこともあったわね。


 あ、いいカードが出てきた。家族のカード。老人の男を囲む家族たち。


「今はご夫婦とお子さんだけで生活されています?」

「……はい」

 私はカードを差し出した。

「いっそのことご主人のご実家でお暮らしになった方がよろしいかと?」

 それをいうと奈々美さんの顔は見たことのない引き攣りをした。目を見開き首を高速で振り続ける。


 あなたにそんな選択肢はない。

 私は選択もできぬまま義父母たちの近くに住まわされ夏彦がいない日中はもちろん土日祝日365日監視過干渉されてきたのよ……あんたたちは逃げ回って都合の良いときにやってきて!!!!!


 あなたたちが逃げ回ってる時に私はどれだけ辛い思いをしたのか。好きなように育児なんてできなかったし一緒に住んでもないのに家事もあーだこーだ口挟まれて。

 占いの仕事もこうして外で仕事をするにあたっても詐欺をするような奴はうちの血筋にはいらない! と大暴れ。夏彦さんは流石に間に入ってくれたけど(私が働いて収入が増えれば自分の手持ちから私にお小遣いを増やさなくていいから。自分に利益がないと助けてもくれない)


「いや、もうそろそろ今まで借りてきたものを返さないと……つけが回ってきますよ」

「……いやです、いやです!」

 そうよね、あなたは秋利さんが奈々美さんにはメールや電話をするな! って間に入ってくれましたもんね。

 私はそんなこと夏彦さんしてくれなくて酷い時は毎日のように義母からメールがじゃんじゃん。文句長文メール。

 義母の愚痴や説教を受け続けたのに……。


 私は次々とカードを出していく。


「一緒に住むと経済的でなくて娘さんの面倒も見てもらえるから学童とか余計なお金かかりませんよ」

「嫌です……近くでさえも嫌です……お金を返すことは……当たり前ですけど、職場も遠くなりますし」

 まだ言うのか、この女は。


 震えた手で奈々美のカードを引く。


 ああ、占いと出会った時はこんな恨みつらみが溜まった状態でするものではない、と思ったのに……。


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