第三章 奈々美
第10話
「こんにちはー」
と彼女は恐る恐るドアを開けた。
奈々美さん、40歳。主婦。子供はまだ小学生に上がったばかり。
「こういうところは初めてで……」
「そういう方も多いです、ご安心ください。後ろにいますのは助手ですのでお気になさらず。ここでご相談したことは全て秘密厳守、漏洩することはございません」
と流れるように説明し、私がお茶を出した。奈々美さんはハァ、と声を出してお茶をすすったがルイボスティーの苦さに彼女はびっくりして湯呑みを一度置くがもう一度口にする。
「確かメールでご主人のことでお悩みだと」
「は、はい……じゃあ話してもいいですか?」
「どうぞ」
奈々美は再びルイボスティーを啜ってから話し始めた。
「私の夫は浪費家なんです」
と目を伏せていう彼女。膝の上に置く手をグッと握りしめた。
「子供もまだ小さい……小学2年生になるんですけどね、あれこれおもちゃも買うし……いや悪くはないけど娘が欲しいとか言ってないものも買ってくるし、ネットゲームも甥っ子にカッコつけようとこっそり課金してるし……」
なーに、そんなの今に始まったばかりではないじゃん。
「まだ車のローンも残ってるし……子供これから増えるわけじゃないのになんで3人家族であんなワゴン車買っちゃったんだろう。運転しにくいし……私たち電車通勤だし」
お金もないのに、あんなでっかいの乗って。それにすぐ擦って修理20万とか。バカみたい。
よかった、口元のマスクで笑った顔はわからないだろう。そしてこの目元の厚化粧とカラーコンタクトで私のことなんてわからないでしょうね。
ねぇ、小鳥遊奈々美さん。……夏彦の弟のお嫁さん。
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