第9話
次の依頼者が昼過ぎともあって店を完全に閉めて私は椅子を倒して塞ぎ込んだ。
誠也はそばに椅子を置き手を握ってくれている。
この待機時間では予約外の客やオンラインの占い客やメール返信、ブログ更新など意外とやることが多いかのだが家でスマホでできる。
しかし今はそんな気分にはなれない。
自分が自暴自棄になってしまったことに反省している。
でも私は悪くない……私は……。
「お姉ちゃん……確かに夏彦さんがやったことは悪いよ。でも、行き過ぎてるよ」
「そうよね……でも……」
ぎゅっと握る誠也の手は柔らかく芯は硬い。夏彦にはそんな感覚がなかった。まぁ誠也とは手を繋いでたから。
「姉ちゃんが占いの仕事始める、って聞いてすごいやって思ってた。どんどん成長していくお姉ちゃん、素敵だった。絶対家の中で籠ってちゃダメ、そう思ってたから……だからこうしてお店でも働けるようになって僕も助けたいって」
そうね、私が占いをすると自分の実家の家族に伝えたのは誠也だけだった。
僕も占って、となんどか練習台になってくれた。夏彦は一度占ったけど気持ち悪い、カード占い、所詮運ゲーだと揶揄して練習台にならなかった。
純粋な誠也はいい練習台になった。でもネットでは全員が全員誠也のように優しい人……いないわけでもなかったけど……自己中だったり、依存してきたり、言いがかりをつけてきたり……夏彦と変わらないや、どこに行ってもネットの世界に逃げても私は傷つくのか……と絶望したけど一部の優しいユーザーさんと誠也のおかげで私はなんとか頑張れた。
どんなに大変でも、寝る暇を惜しんで鑑定してた時も、PTAや子供の行事、いつも通りの家事育児、嫁姑問題、誰にも言えない占い師としての仕事、でも表向きでは専業主婦でいるという世間からの目……。
そして浮上した夏彦の不倫、さらに誠也が雇ってくれた友人の探偵が暴き出した他の女。
私はチャンスだと思ってパソコンに長けてる誠也を助手として雇った。
私のいいビジネスパートナーともなった。それ以上に私の大好きな誠也がそばにいてくれる、それだけで安心になった。
職場は、私の避難所。
倫太郎が全寮制の中学校に進学したのも倫太郎なりに避難所を見つけたのだ。
私は夏彦と二人きりになった。
倫太郎は長期休みでも帰ろうとしない。夫は子育てから手が離れたとそれをいいことに仕事と言って他の女と不倫をした。
家に帰れば何もせず口ばかり文句ばかり。私を相変わらずモラハラし続ける。
私は夫がいない時間とこの仕事場の時間が一番平和だ。
そして隣にいる誠也、彼の存在が一番生きる糧になっている。倫太郎はもちろんだけど……彼は私にでさえも会うことを拒んでいる。
自覚はあるわ。夏彦から受ける言葉の暴力の捌け口は倫太郎だった。手は出さないが彼に怒鳴りつけたりキツく話したり。
オンラインの占いの仕事の時も倫太郎が遊びたがって邪魔してきたけど、あんたのお父さんがお金を入れないからこっちは苦労してるんだ! あっちいけ! と怒鳴ってからは私にあそぼう、だなんて言わなくなってしまった。
小学校の担任からは息子は友達からハバにされていたことを聞いてショックだった。
それも知らず私は仕事に一心不乱で気づいてあげられなかった。
だから倫太郎は一人で進学校を決め一人で家を出て行ってしまったのだ。
だから私に残るのは誠也……この誠也だけ。
「姉ちゃん、夏彦さんがひどいことをしたのは確かだ。その女の人たちも妻子がいるのわかってたりわかっていても夏彦さんとの関係を辞めないのもいけない。でも占いも利用してその女の人たちも……ある意味被害者の彼女たちも傷つけるのは間違っているよ」
それはわかってる、わかってるよ。
「マダム金城や……お姉ちゃんを慕ってやって来て幸せそうに帰っていく人たちの顔を思い出して……」
ええ、みんなこんなズブなど素人な私の占いを信じ、解釈して……中にはわざわざお礼しに来てくれる人たちもいた。
占いは忌み嫌われることもあるけど幸せにすることもできる。なのにそれを利用して……ひどいわよね。
他の占い師さんにも申し訳ないし本当に悪いことを利用してお金を巻き上げている占い師を私は軽蔑してたけど今の自分はそうじゃない。
私はどの仕事も続かなかったけどこの占いの仕事は長く続いている。
大切にしない……と……。
いや、まだダメよ……まだ……。私は体を起こした。
「お姉ちゃん……大丈夫?」
「大丈夫……準備しなきゃ。昼からくるあの人を出迎えないとね」
「……そうだったね……でも……」
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