第8話

「キョウコさん、大丈夫ですか」

「は、はい……」

 しまった、私はつい自分の事で……。

 目の前にいる遥も思い悩んでいるけどなおさら苦しんでもらわないと。


 そう言えば敦子に関しては密会の証拠、カーセックスの写真と動画をセットにして送りつけたの。そしたら敦子が焦ってすいませんでした、裁判すると夫にばれてしまう。それだけは避けたい。って詫び状が来たの。は?

 って感じ。

 慰謝料払いますから穏便にお済ませくださいお願いしますってもうてんやわんや。

 なるほどねぇって思った私は弁護士さんに頼んで慰謝料換算してもらって送り付けて今頃泡吹いているかも。彼女は夏彦にいろいろ買い与えていたみたい。さてどう来るかしら。


 まぁ彼女たちは私達の夫婦関係には本当は関係のなかった人たちだけど敦子に関しては私の夫と知りながらも不倫していたわけだし。

 私の事もバカにしていたからね。

 遥さんに関しては残念ながら妻子持ちと知らずに夏彦と出会ってしまって家族をおざなりにして不貞を繰り返していたのよね、かわいそうだと思ったけどお忙しいご主人の代わりに愛してくれる夏彦に溺れてしまったのか。

 結構探偵費がかかってしまったから搾り取るところまで絞らないと。ごめんなさいね、本当に。


 遥に関しては誠也が弁当屋のSNSからいろいろ探ってもらってうかつにもフォローしていた彼女のSNSを発見して私の占いサイトへの誘導を仕掛けたの。

 来店まで少し時間かかっちゃったけどSNSにはご主人との関係の悩み書いていたからそれにつけこんでの誘導。よくやったわ、誠也。

 足しげく彼女は通ってくれるようになって。神社とかパワーストーン好きということもあってパワーストーンを占いの後にかわせるようにしたらすっごくはまっちゃってー。


 次第に彼女の夫だけでなく幼稚園のママ友とのトラブル、嫁姑問題、色々些細なことで弱っている彼女はお守りを不定期に買い求めてね。そのおかげで探偵費用も補填ギリギリだけど出来ている。補填要因なのよ、ごめんなさいね。

 あなたの心配事や悩みとか私もわかるわかると心痛くなったけどそんな場合じゃないのよ。

 夏彦を地獄に落とすためにも……犠牲になってもらわなきゃダメなのよ。


 私は震える手でカードを混ぜていく。動機も酷くなっていく。今朝も夏彦から言われた。

「そんなに金がないって? お前占い師なのに自分の事占えないの?」

 鼻で笑われた。占いの事は今までもあーだこーだ言われた。小銭拾い、呪いの儀式、悪魔、そんなのに引っかかるやつもバカだ、私が専業主婦から自立しようっていうのに……経済DVも加えていつも以上に罵る。

 どんだけ自分が偉いのだろうか、こいつは。誰に対してもケチ付けて下におろして自分が一番だという姿。どれだけ滑稽だと思うの?????


 見栄ばっかり張って。普段は買い替えもしない昔から着ている服を着てるくせに倫太郎の習い事では一丁前のスーツを着て。私にはぼろのワンピースしかくれなかったのにそんなぼろを着るな、とワンピースを買わせておめかししたら周りの保護者はラフな格好で周りから浮いてて周りに笑われてたの気付いてないのかしら。


「キョウコさん、大丈夫? すっごい汗。なにか感じ取っているのかしら」

 もう私は一心不乱にかき混ぜる、私には霊感は無いけども依存症の強い遥にとっては壮大な儀式の演出に思えるようだ。それでいい、それでいいのよ。


「もし次、車でと誘われたらもう断りなさい。断らずにずぶずぶ落ちていくあなたが見えるわ」

 塔から落ちる人のカードと悪魔のカードを同時に出すと遥は泣き出した。


「あの人だけなの、私をこんなに愛してくれるの。だから私は彼とあきらめきれない。彼は奥さんとの不仲なんですか」

 私はつい「ええ」と言いそうになったけどやめたわ。確かに離婚して別れて他の女の人に渡してやってもいいって思ったけども。


 その前には裁判を起こさなきゃいけないし。私負けてそそくさと他の女のところに行ってしまうのが腹立つのよ。もっと証拠をつかんで完全に私勝利になるようにしないと……!!!!!! お金もたくさん必要なの。


「じゃあ、意思が強くなるようこのブレスレットを持つといいけども。あくまでもお守り感覚でね」

 と私は息絶え絶えに昨晩必死になって作ってた原価の安い石で作ったブレスレットを見せる。

「買わせていただきます……いつもキョウコ先生に助けてもらっています。でもこれを持っても私はまだ彼のことは愛し続けます」

 やはりそう来た。彼女はそうなの……いくらダメと言っても辞めない。本当に可哀想。ごめんなさいね……。


 と遙は去っていった。


 鞄のお守りたちの中に彼女の子供の写真のキーホルダーも混じっていた。


 ……私は彼女が去っていくのを見て横たわった。

「先生、大丈夫ですか?」

 誠也が心配してくれる。夏彦は体調悪くても心配してくれないのにね。


「……もう、これ以上こんなことやめた方がいい」

 えっ。


「十分証拠も揃ってるし……このままでは……このままでは……お姉ちゃんが壊れちゃう」


 ……誠也。


 彼は私の弟なのだ。

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