第二章 遙

第6話

「今日はこれをもらうわ」

「よかった、金城さんにとってもお似合いと思って……この黄色の感じが」

「キラキラっとして運気アップね! あー、腕につけたら幸せっ!!! また来ますわー」


 と常連客のマダム、金城さんが帰っていく。彼女は占い、と言うよりも夫や近所の人の愚痴を言いにきて言うだけ言ってスッキリして帰る夫が自営業で輸入家具売ってる人らしく。潤沢な資産があるらしい。


 彼女は趣味で、とサロンも作ってもらって実際にサロンで働いているのは自分でなくて若い女性たちを雇っているのだとか。

 経営者、と言いながら夫からもたくさんお金やブランド物をもらい、自分でもお金を生み出すまるで豊満なボディを持って横たわるこのご婦人のカードそのものだわ。

 見た目も。


 両手首には私が作ったパワーストーンをじゃらじゃらつけてハッピーとか言いながらご機嫌になって帰られる。

 ある意味自分でご機嫌をとる人なのだろう。彼女の周りも彼女のそのオーラを愛したくさん人に囲まれて幸せそうだ。


 こういう人生もいいな、とか思うけど何か私には合わなさそう。

 まぁ夫からたくさんお金もらえるというのはいいなとか思う。自分の手を使わずに稼げるのも。


 結婚してからしばらくは仕事ができずケチな夏彦から最低限の生活で切り詰める日々。

 お小遣いと称してもらっている分も生活費に回さないとやっていけない。

 周りからは奥さんにそんなにお小遣いをあげてるんですか? おかしくないですか? って言われたんだとか。夏彦曰く。(曰くだから……怪しい)


 ようやく息子の倫太郎も中学生になった。義母には

「倫太郎ちゃんが中学なるまで働いちゃダメよ、母親でしょ? それに夫を支えないと!!!!!」

 だなんて言われててクソ喰らえ!!! って心の中で中指立ててたら気づけば義母の言葉通り外で働けるようになって店舗に所属する占い師になったのはこの時だった。


 倫太郎が幼稚園くらいに子供の情報を見るために見ていたネット広告で

「自宅で占い師しませんか」

 ってのを見て。もともと趣味の占い。依頼があったらメールでの非対面の占い。ステップアップしたら電話やビデオ通話でのオンラインもOK。


 ……夏彦が仕事、倫太郎が幼稚園の時に!!!


 まずは夏彦に相談したわ。しなくてもいいのにしちゃったけど。


 そしたら

「ふん、そんな稼げるわけないだろ。主婦の小銭拾い……まぁすれば?」

 と。


 くそ、何が小銭拾いだ。


 そっからも大変で占いは好きだけど人に伝わるように文章を書かなくちゃだし、占い師は全国にたくさんいるし、私と同じように何らかの事情で在宅の占い師は山ほどいた。

 私は露骨な潰し合いは無かったけど、優しくしてくれた占い師の仲間からいきなり肯定感下げられるようなことを言われたこともあったけどその人が何の理由か知らないけどやめてしまったのでなんとか私は気持ちを取り戻した。

 しかしどうやったらみんなに見てもらえるのか。何も取り柄がなかったし、誰かの弟子になるわけでもないし……。

 でもこんな私でもポツポツと占ってください、という人が増えた。


 それは私がモラハラを受けていることを告白してからだろうか。

「同じ思いで辛い境遇にある人を救いたい! 私と共に乗り越えましょう」

 って占い師ブログに書いた頃からなぁ。同情もあったけど興味を持ってくれただけでも嬉しいし、次第に同じ境遇の人が占って欲しいと……。

 一年後には事務所の方から

「ライブ配信で占いしませんか?」

 という誘いがあって。

 絶対素性は明かせないからカツラとお面を被って占うという怪しさ……。

 メイクしたくても小学生になったばかりの倫太郎がいつ帰ってくるか分からずメイクはできない。

 だから百均で適当に買ってきたお面被ったんだけどそれがウケて一年は平日の日中在宅でオンライン占いをした。


 そこから給料も跳ね上がって……。

 どこで占い師をしているかは夫には伏せた。そこまでは興味ないらしい。ただお金が入ってきたのわかった途端に生活費と一緒に支払ってくれてたお小遣いを引いた額しか渡してくれなかった。

 あと今まで払ってくれていたスマホ代とか車のメンテナンス代も。


 私はムカつくと思いながらも自分で払うことが自立の一歩よ! 給料もこうして少ないながらもらってるから二歩も三歩も歩いてるわ! と言い聞かせた。


 あのマダム金城に近づいたんだわ。ぐうううって握り拳を握る。

 ちなみに彼女は夏彦に関係ない一般の占い好きのマダムである。


 ってあのパワーストーンブレスレットたちは私が家でパジャマ姿で老眼になりかけてる目でもともと不器用なのに必死こいて使っているのよね。

 事務所経由して材料を手に入れることもできるけど高くつくから占い仲間から教えてもらったお店から安く仕入れて高く売ってる。

 パワーストーン単体で買いに来る人は金城マダムと数人くらいだけど占いと抱き合わせで、というパターンがほとんど。

 よく占い師って謎のツボや水晶買わせるイメージ強いけど……強制はしない、私は。


「先生、そろそろ次の方が」

「あら誠也。そんな時間? 確か次は……常連の」

「はい、以前もみえた方でお守りのメンテナンスもリクエストされた方です」

「……ああ、あの遙さんね。誠也、記録しっかりね」

「はい、もちろんです。あと少しで……証拠も揃えられます」


 カランカラン……



 来たわ。


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