第2話

「その……えっと」

 敦子の目線が私の後ろに行く。

「ああ」

 私の後ろに衝立があり、その後ろに人が座っている。

「助手ですわ。誠也、ご挨拶して」

 

 衝立の後ろに座っていた黒の浴衣に黒のマスクをつけた誠也が立ち上がって頭を下げる。すると敦子も頭を下げる。

「彼も占い師の卵ですわ。私も彼氏ともども相談内容、鑑定結果、個人情報はもちろん他で漏らすことはありませんので思う存分お話しください」


 そういうと敦子はハイ……と苦笑いしつつ私の方に目線を変えた。

 私はタロットカードをかき混ぜる。


「……えっと、彼氏が」

「彼氏さん」

「彼氏が最近そっけなくて」

「あら。彼氏さんは何でお呼びしたら。お付き合いはいつから……?」

「ナツ……。あ、カッコ仮名ーほほほ」

 となんか緊張の糸が解けたのか笑う敦子。

「ええ、仮名で結構ですよ。ナツ、さん……」

「はい。私より少し年上、45歳。付き合い始めたのは3年前です」

 私はカードの山を二つに分けてそれぞれ数枚を捲る。


「そっけなくなったのは……つい最近? 二人との間は仲は良さそうですけど」

 と二つの間に置いたカードはそう悪くはないしむしろ仲の良さげなカードである。


「はい、つい最近……メールの返信も遅くって。会ってもその、身体の関係のみで」

「でもあなたはそれを受け止めてしまって身体を捧げている……」

 カードを一枚目の前に出す。悪魔が男女二人を鎖に繋げている絵が描いてある。


「お付き合いされた頃はどんな関係で……ずっと身体とお金でしか繋がれてない」

 相手側、ナツの方は自由気ままで遊び呆けているカードが出ている。

 敦子の方は奉仕のカードが。


「……おっしゃる通りずっと肉体関係で」

「ですよねぇ。あなたが結婚されていますし」

 敦子の左手薬指を指差す。あっと、敦子は隠すがもう遅い。自分が既婚者であることを隠すつもりが指輪のことをすっかり忘れていたのだろう。


 ……。

「は、はい。結婚しております……」

 カードを見ると剣を持った王様、夫は堅い厳しい人だろう。

 家族仲は良くも悪くもなさそうだ。しかし彼女はズブズブと自分の欲に溺れている……。


 そして。

「……その彼氏さんも家族のカードがたくさん出てるんですけど……失礼ですが」

 と私はカードを見せると敦子はオロオロしながら頷いた。


「ええ、彼にも妻子がいますわ……彼はとても円満な家庭なのでしょうか?」

 ……あら簡単に。別に家族のカードが出てるからと言って妻子持ちという必要もなく、同居する家族……両親や兄妹やら言えるのに。

 素直でよろしい。


「えーっと……彼を囲うように家族が配置されていますからそうですね、円満ですわね」


 ……円満なわけがあるか、ボケ。夫が中心になって……ほらもう一枚の椅子にどさっと座った偉そうな王様のカード……モラハラ不倫野郎。

 そんなやつに誰が囲むもんか。


 ……あいつ……夏彦は外面だけはいいのよねー。




 敦子の言うナツは小鳥遊夏彦のこと。



 彼女は私の夫の不倫相手である。

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