第362話(終・第九章第42話) 最高のチーム8(セツ視点)
「チャットで呼び掛けたら見つけたんだ! セツちゃんの力を必要としてる人たち!」
シニガミさん、アンジェさん、ベリアさんの三人がワールドチャットで呼び掛けてくれていました。
彼女たちは探してくれていたのです。
――マーチちゃんと同じように「
事故によって身体に後遺症が残ってしまった方はマーチちゃんを除いて世界中に十人存在するらしいのですが、そのうちのお二人の関係者の方たちと連絡を取って、私がつくった薬を試してみてはどうか? と勧めてくれていました。
(その方たちは外国の方でしたが、なんとベリアさんがマルチリンガルだったので問題なくやり取りができた、とのこと)
三人から報告を受けた直後、パソコンと連結していたスマホに柳燕さんから電話がかかってきて、ベリアさんたちが今話してくれた、臨床試験を請け負ってくれる患者さんが見つかった、ということが伝えられて。
これは、彼女たちが掴んできてくれたチャンスです。
絶対にものにしなければいけない! と感じた私は、急いで吾妻製薬に向かうことにしました。
ログアウトした時、コエちゃんが何もない壁の方を向きながらぶつぶつと何やら言っていました。
「……そんなことをして許されると思っているのですか? そんなはずないでしょう? これを載せて……これをこうして……」
「あの、コエちゃん……?」
「あとあれも添付しましょう。私の大事な人の心に傷をつけて……! 目にものを見せてやります……っ!」
一応、彼女に声を掛けましたが、お取り込み中のようで反応がなかったためそっとしておくことにしました。
……少し怖かったですし。
ゲーム機による事故の被害者の方たち二人は、その翌日には日本に到着しました。
前日に私が張り切って今までで最高の出来でつくり上げた薬を、お医者さんと柳燕さんが付き添いのもと服用していただいて……。
数日間続けてもらうとその方たちに変化が生じました。
事故があってから足の感覚がなくなっていたそうなのですが、その感覚が戻った、というのです!
私がつくった薬はちゃんと効果を発揮していたようでした……!
四月十一日、水曜日の夕方。
明日の12時でオンラインとしての機能を失う「ギフテッド・オンライン」の世界のメインハウスで私は一人、彼女のことを待っていました。
彼女が来るまでにこれまでにあったことを思い返します。
始まりはひどいものでした。
あゆみちゃんにやるように言われて、でも、求められていたスキルをゲットできなかったから、ってその当時では難しいダンジョンに投げ込まれて。
死に物狂いで強くなって街まで戻ってきたらマーチちゃんに会って。
マーチちゃんが生贄にされそうになっていたところを偶然居合わせて助けて。
マーチちゃんと冒険をして、絡んできた弥生を返り討ちにして。
でもその所為で、マーチちゃんは事故に遭って……。
マーチちゃんと楽しい思い出をつくるために初回のイベントを頑張って。
だけど、それで目立っちゃったから厄介なのに目をつけられて。
「リスセフ遺跡」の最上階に置き去りにされて。
彼女の暴走を止めたら、その厄介なのが仲間になることになって。
変なアップデートが行われたから鍛冶師さんに会いに行くことになって。
条件を出されたけど、協力してクリアして装備をゲットして。
鍛冶師さんに仲間になってほしい、ってお願いしたけれど断られて。
鍛冶師さんが詐欺師たちに騙されて。
詐欺師に騙された鍛冶師さんを救って。
鍛冶師さんが、実は私がよく知っている人だったりして。
四人で二回目のイベントに挑んで。
ギルドの仲間になる「花鳥風月」の諍いを解決して。
狙われた「花鳥風月」を助けて。
ギルドを結成してギルドハウスを建てて。
私の宿敵だった子が仲間になって。
ギルドイベントがあって。
殺される運命にあった子を救って。
ギルドが乗っ取られて。
それを、やっぱり頼りになるあの人が考えた作戦で追い出せて。
あの子が現実に来たりして……。
お店を開いて。
私にひどいことをしたあの男が私たちのお店にやってきて。
パーティ解散の危機に追いやられて。
逆恨みした人たちが襲ってきて。
その人たちを撃退して。
この時初めてあの厄介なのと心を通わせて、本当の意味で仲間になれて。
パーティ対抗イベントが行われて。
あゆみちゃんとゲームの中で再会して戦うことになっちゃって。
(苦戦はしなかったけど)
スキルを奪う迷惑なプレイヤーが現れて。
緊急クエストが出されたけれど、頼りになるあの人がやっぱりすごくて。
他のパーティの方たちとも協力して迷惑プレイヤーの無力化に成功して。
「天使と悪魔の輪舞 with シニガミ」が仲間に加わって。
みんなで冒険して、頭のおかしい第十四層を力を合わせて制覇して。
最終ステージも最後のイベントも一番を取って……。
約一年間、みんなと過ごしてきました。
それがもう終わる、って考えると感慨深いものがあります。
ギルドハウスのエントランスを見収めるように眺めていると、彼女がやってきました。
「あれ? お姉さん一人なの? 他の人たちは?」
声のする方に顔を向けると、小首をかしげているマーチちゃんの姿が目に映ります。
私は彼女にお願いしました。
「マーチちゃん。ちょっと二人で話さない?」
「もう終わっちゃうね。明日は平日だから会えるのは今日が最後かな……」
「……長いようで短かったの」
場所を移動して、夕焼けに照らされる桜を見下ろしながらするマーチちゃんとの会話。
少し間が開いて、私はマーチちゃんに伝えました。
「私、現実でもう薬をつくってるんだ」
「……え?」
「ノウハウはコエちゃんに教えてもらったんだけどね? ……それで私、絶対にマーチちゃんの足、治してみせるから!」
「お姉さん……っ」
「今はまだ認められてなくて、マーチちゃんの元に届かないかもしれないけど、でも、いつか必ずマーチちゃんの元に届かせてみせるよ」
「……うん……うん……っ」
「……それでなんだけど、連絡先の交換は待ってもらえないかな?」
「えっ!? ど、どうして……?」
「マーチちゃんの連絡先を知っちゃうと私、ずっとマーチちゃんと電話したくなっちゃうと思うから……」
「……お姉さん、ボクのこと大好きなの?」
「うん。そうだよ?」
「っ」
「でも、どうしてもマーチちゃんが耐えられない、ってなったらコエちゃんに連絡すれば私の連絡先を教えてもらえるようにしようと思うけど……」
「……ううん。ボクも待つの。お姉さんが助けてくれるの。だから絶対、ボクの元に届けてほしいの。約束なの!」
「うん、約束っ!」
私の目標を。
その日、私の目標は私たちの目標に変わりました。
マーチちゃんと交わした約束を守るために、私の薬を世界に認めさせなければ……!
私は気合を入れ直して私の薬を認めてもらえるように尽力しました。
それから三週間後。
私は、
――倒れることになります。
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