第360話(終・第九章第40話) 悲しき怪物の末路1
~~~~ 第十六層不思議エリア「ナゾナゾの街」 ~~~~
【少し遡って三月十九日・未明】
『テイク(イベントでキャリーすることになるNPC)を無事に第十六層に連れてきていただきありがとうございます! これはそのお礼です! 受け取ってください! ちなみに、この依頼を達成された方はあなたで
――二組目です』
「……は? …………うがああああああああっ!」
第一層の街から第十六層の街までNPCを運ぶという内容のキャリーイベント。
それを今クリアした人物が一人いた。
だが。
イベントを早い段階でクリアすることができているというのに、その人物はちっとも嬉しそうではなかった。
歯を剥き出しにしてぎりぎりと軋ませ、眉を吊り上がらせる。
頭を掻きむしり、地団太を踏んで悔しさを露わにしていた。
その人物はロード・スペード。
セツに、このゲームをやるように言った張本人である。
「くそ、くそくそくそくそっ! なんでだ!? なんでこうなったんだよっ!」
ロードは納得できなかった。
この展開に。
一位でイベントをクリアしたのが「ラッキーファインド」であることは容易に想像することができる。
生産職の面々が仕切っているギルドに負けたことが、彼には無性に腹立たしいことであった。
ロードは振り返る。
……嫌でも振り返させられる。
思えば、第十六層・最終ダンジョンの踏破も「ラッキーファインド」に先を越されていた。
第十五層と第十六層は少し特殊で、ダンジョン1からダンジョン2へ、それからダンジョン3を攻略してからでないとダンジョン4へは挑めない仕様になっていた。
第十五層は60階構造、第十六層はダンジョン4を除き64階構造となっており、攻略するにはそれなりに時間を要した。
ちなみに、第十六層のダンジョン4は1階構造(入ってすぐラスボス前の間)である。
ロードがラスボスを倒したのが二月の十三日。
新エリアが解放されてから一週間が経過した時だった。
これでも400階以上のフロアを攻略しないといけない、ということを踏まえると速い方と言えるだろう。
しかも、ラスボスはあのプロデューサーをモデルにしたモンスターであった。
ダメージを与えられない「残酷のカプルピクニス」
空間を歪ませる「醜悪のコクレアタウルスス」
アイテムが効かない「無感動のウィーペラシヌス」
バステ・デバフを振り撒く「拒絶のパヴォペリティレオ」
(獅子の頭とクジャクの身体、蝙蝠の羽を持つモンスター)
スキルが効かない「愚鈍のポルクロコディラレ」
(ブタの頭にワニの身体、ハエの翅を持つモンスター)
死なない「無神論のダエモドラコニス」
(一本角タイプの鬼顔のドラゴン)
を召喚して使役してくるのである。
もちろん、『フィールドウォーカー』、『ダメージ・バステ・デバフ全反射』、『アイテム創造+』も使ってくる。
これに対してロードは『黒粒子化』で応じた。
相手は即死である。
にもかかわらず。
一番にこのゲームをクリアしたのは「ファーマー」率いる「ラッキーファインド」だった。
彼女たちがクリアしたのは二月七日、ゲーム内時間で④の0時18分。
新エリアが解放されて僅か一日後のことであった。
(ちなみにセツたちは、パイン、シニガミ、ベリアが相手のスキルを無効化できるシールの魔法が使え、クロが装備に付いている特殊効果で相手を弱体化できるので、苦戦は強いられなかった)
その情報が、ラスボス戦のあとで行くことができた空間の中央にあった石碑に刻まれており、それを見たロードは気が狂いそうになった。
それ以前にも。
第十五層を制覇したのも「ラッキーファインド」の方が早かったし、頭のおかしい難易度設定だった第十四層を攻略したのも「ラッキーファインド」の方が先だった。
第十五層のエリアボスはロード・スペードを模したモンスターで、「運営」に認識されている! と感じられてロードは気分がよくなっていた。
ダンジョン1でのボス戦はロード(覚醒前)一人だが、ダンジョン2では「MARK4」のパーティメンバーで、ダンジョン3では「キングダム」のギルドメンバーで、ダンジョン4のエリアボス戦ではロード一人だが『黒粒子化』を得て覚醒している状態だった。
第十五層のエリアボス戦はロード本人でも苦戦させられていた。
だが、「ラッキーファインド」はそのエリアボス戦をセツ一人で圧倒、決着までにかかった時間は僅か0.1秒である。
このことをロードが知った時、欠けそうなまでに強い力で歯を噛み締めていた。
(ラスボスの奥の空間にある石碑に書かれていた)
ダンジョン攻略は第七層から第十三層の間も「ファーマー」……というかセツが先行している。
しかも、それだけではない。
イベントでも「ファーマー」の方が好成績を収め注目をされていた。
第一回の魔石集めイベントでも、第三回のイベント村救出イベントでも、第四回の
ロードは第二回のイベントダンジョン踏破イベントのみ辛うじてセツに勝っているが……。
パーティとして見た場合、「ファーマー」に完敗していた。
「おかしい! おかしい、おかしい、おかしい、おかしいっ!」
ロードは虚空に向かって吠えた。
彼の計算では、このゲームにおいて一番のプレイヤーになっている予定だった。
そして、どうしようもないセツに、仕方ねぇな! と言いながら手を貸している、そんな姿を思い描いていた。
しかし、実際は……。
――ロードは現実でもゲームでも、何をやっても上手くいかなくて、
セツは現実でもゲームでも、優秀で人気者だった――
「おっかしいだろぉおおおおおおおおっ!?」
この事実がロードには受け容れられない。
セツは勉強もできて運動もできて、頬にあるそばかすと学校がある時は眼鏡を掛けている地味な印象の女子だが見た目の素材はよく、スタイルもいい。
明るく誰かのために行動できる性格であるため、ロードの家族も慕っていた。
それに比べてロードは勉強も運動も得意ではなく、容姿もぱっとする方ではない。
ゲームをする時や
ロードは幼馴染であったセツとよく比べられていた。
家族も口を開けば、刹那ちゃん、刹那ちゃん、と言っていて……。
それがロードは気に食わなかった。
自分が見られていないように感じていたのだ。
ロードはあまり秀でたものを持っていなかったが、承認欲求は人一倍強かった。
だからせめて、得意なゲームではセツの上に立つ! そう思っていたのだが、その願いは叶わなかった。
……ように思えたのだが。
「いや、まだだっ!」
彼は諦めが悪かった。
宿屋の倉庫から「スキル変更の巻物」を取り出し、使用したのである。
『黒粒子化』を捨て、得たのは『壁に耳あり障子に目あり』。
離れている場所の様子を見聞きすることができるスキル。
ロードはそれで、
――セツたちの弱点を探ろうとしたのである。
それは、現実で夕方になってからのことだった。
学校から帰ってきてからすぐにゲームの世界にやってきて盗み聞きをしていたロードの耳にセツとススキの会話が入ってきたのは。
『セツちゃん! セツちゃんがつくった薬、チョーいい感じ! 動物たちもみんな元気で体調バッチリだから、これなら思ったより早く治験に移れるかもしんない、ってパパが!』
『は、本当ですか!?』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます