第353話(終・第九章第33話) 最高のチーム1
「ギフテッド・オンラインの最強を決めるイベント」から二日が経過した、十二月三十日(土曜日)。
現実でお正月に食べるおせちをコエちゃんと一緒につくっているところにドタドタと
大きな荷物を背負いながら。
今日帰ってくる、とは聞いていましたがこの時間(朝七時)に来るなんて……。
あと、インターホンは鳴らしてください、イチ姉……。
「刹那ちゃん! 大丈夫だった!? 変なことされてない!? とりあえずあいつらシバく!? ぶちのめす!?」
「ちょっ、イチ姉!? 大丈夫だった、って何が!? あいつら、って誰!?」
ダイニングにやってきて私を見るなりそんなことを言ってくるイチ姉。
イチ姉に両肩を掴まれてぐわんぐわん揺らされた私は、とりあえずイチ姉を落ち着かせることに努めました。
なんとか揺するのはやめさせられましたが……。
何故イチ姉がこんなに取り乱しているのか? と理解できないでいる私にコエちゃんが推測したことを述べてきます。
「あのこと、ではないですか? 未来さんと月見さんの学校の合同文化祭で起きた事件。京王未過のしたことは配信されていましたから、消されずに残っていた刹那さんの姿が映った映像を逸身さんは事件のあとどこかのタイミングで見たのかもしれません。逸身さんは忙しくされていたようで、あの事件があってから会うのは初めてでしょう? 思いが爆発しているのかもしれません」
「……ああー……」
そういえば、イチ姉は文化祭に行けなかったんですよね……。
一応、ゲームの世界で会った時に文化祭であったことは伝えていたのですが、イチ姉は、その、私のことが大好きすぎるので私が事件に巻き込まれたことは伏せていました。
彼女は昔から私が傷つけられているのを見ると黙っていられない性格で……。
私が小学生の時に胸が大きいことを揶揄われていたのをイチ姉が目撃した、ということがあるんですけど、その時イチ姉は彼女がつくった育乳マシンを私を揶揄っていた子に使用してその子の胸を私みたいにする、なんてことをやっていたりして……。
……あれはやりすぎでした。
その子、男の子だったので……。
ですから、イチ姉にあのことを話したら私に害を加えた人たちに対して何をしでかすかわからなかったので彼女には話せなかったのです。
私はイチ姉を犯罪者にはしたくありませんから……。
(ちなみに私が小学生の時にイチ姉が起こした問題は、抗議をしに来た相手の両親を当時中学生だったイチ姉が言い負かしたことで警察沙汰には発展していません)
イチ姉……ゲームでは普通にしていたと思うんですけど……。
どのタイミングで例の映像を見たのでしょうか?
彼女の性格を考えると、例の映像を見てじっとしていられるとは考えられませんが……。
私がそんな疑問を抱いていると、イチ姉が私を抱きしめて言ってきました。
「不覚! 講義とバイト、入れすぎててすぐにこっちに来れなかった……! 本当はブッチしてでも帰ってきたかったんだけど、刹那ちゃん、真面目じゃないの嫌い、って言ってたから……! だから、耐えた! 映像で一応無事だったのを見たし、ゲームでもそれとなく探ってて、深い傷負ってないのは確認できたから、本当にぎりぎりだったけど耐えられた!」
その身体は震えていて……。
彼女が心配してくれているのが伝わってきました。
「……ありがとう、イチ姉」
私は抱きしめ返して、そう伝えました。
「……あっ、ちょっと待って」
「……どうしたの?」
しばらくの間そうしていて落ち着きを取り戻したイチ姉は、私から離れて背負っていたバッグを降ろし中を漁り始めます。
そして何かを取り出して、それを私に差し出してきました。
「じゃじゃーん、刹那ちゃんのためにつくってきた! 悪漢撃退用スタンガン! これでどんな不届き者もイチコロ! 忙しくて帰れない間、刹那ちゃんのことを思って改良に改良を重ねた私の最高傑作! 電圧250万ボルト、電流はミリアンペアを脱した、だけど、使う刹那ちゃんが危なくならないように――」
「イチ姉、それ、違法だよ?」
超危険な代物を。
私の身を案じてくれているのは、その、気持ちは嬉しいのですが、そんなものを受け取るわけにはいきません……。
スタンガンは、電圧は高めに設定されていますが電流はかなり低く抑えられているので人体に悪い影響を残さない、ということが調べた時に出てきました(あんなことがあったので検索していました)。
人は42ボルトで感電して死んでしまうことがあるそうです。
ですから、イチ姉がつくったそれは完全に過剰防衛……。
一般的な護身用のものなら使うことが許される場面であったとしても、イチ姉のそれを使ってしまったらこちらが罪に問われることになるでしょう……。
「なん、だと……!?」
イチ姉はつくっていたのにそのことを知らなかったようでショックを受けて、その手から怪しいスタンガンを落としました。
ちょっ!? 落としたら危ないのでは!?
危険だととっさに判断して拾おうと身体が動きます。
ただ、私よりも先に動いてそのスタンガンを空中でキャッチしていた子がいました。
コエちゃんです。
彼女はそのスタンガンを手早く分解して間違いが起こらないようにしてくれていました。
項垂れるイチ姉。
どうしたものか……、と悩みます。
私のためを思ってつくってきたものが使えなかった、というのはイチ姉からしてみれば精神的にくるものがあったに違いありません。
私のため、というのが前提にあったのはわかったため、落ち込んだ彼女をどうにかして慰めたい気持ちになっていました。
ふと、思います。
――イチ姉って結構いろいろなものをつくってるな……、と。
ですから、彼女にお願いしてみることにしました。
「あの、イチ姉? 反応釜とか薬研とか、つくれたりする……?」
「ふふん! 刹那ちゃんからの頼み事、断るわけない! 絶対に遂行する!」
私が頼み込むとイチ姉は元気を取り戻し、二つ返事で請け負ってくれました。
私に頼まれた嬉しさしか感じていなさそうなイチ姉に対してコエちゃんが呆れた様子で言ってきます。
「……仕方ありません。私も協力します。つくるのは得意ですから」
「……誰?」
「コエちゃん……って、最初からいたけど、今気づいたの、イチ姉?」
「おお、これが……ふむふむ……悪くないフォルム。でも、残念。今の私には刹那ちゃんがいる。悪いけどかまってあげられない」
「ありがとうございます」
「何故に感謝!?」
ちょっとごたごたしちゃいましたが、コエちゃんも力を貸してくれるというなら百人力でしょう!
彼女は現代科学で見た場合明らかなオーバースペックを持っていると言えますから。
これで私の目標に向けて一歩、どころか十歩くらい前進できたのは確かです!
「……道具はなんとかなりそう……。あとの問題は機械の制御とか、世の中の決まりとか、お金とか……」
私がこれからするべきことを口に出していると、それにコエちゃんが反応しました。
「機械の制御ならできる人が身近にいますよ?」
と。
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